オバマ財政刺激策への疑問

また少し古い(一週間以上前の)ネタになるが、タイラー・コーエン12/6に発表されたオバマ財政刺激策に疑問を呈していた。


オバマ刺激策で挙げられた5項目と、それに対するコーエンの批判をまとめてみる。

  1. 公共施設の建物のエネルギー効率を高め、政府のエネルギー支出を減らす
    • 第一項目にしてはパンチが弱すぎないか? わざと抑えているのか?
    • 支出抑制と雇用促進は相反するものだが?
       
  2. 高速道路や橋梁への公共投資
    • 炭素税と逆効果。
    • 早期実行を促すため、各州に対し「今使わなければ交付しない(use it or lose it)」という条件を付けると言っているが、そうすると州政府は単に現在計画中の支出を後回しにするだけでは? その点については考えられているのか?
       
  3. 学校校舎の近代化・改築
    • ???????????????? (←文字化けではなくそう書いてある)
    • 教育の御旗を掲げれば良いというものでもなかろう。
    • 投資効果がいつ現れる?
    • オバマ流のケインズ穴掘り政策なのだろうが、自分に言わせればまったくの無駄、間違い。
       
  4. ITインフラの更新
    • 良いかもしれないけど、今は人的資本の制約が問題なのでは?
       
  5. 医療のIT化の促進
    • 自分も以前取り上げたことのある問題だし、良いアイディアだが、景気回復につながるのか? 医療部門に投資させる、もしくは投資することになるが、そこは現在不況に苦しんでいる部門ではない。
       

いや〜、財政政策って、本当に難しいものですね、というのがコーエンの全体的な感想(水野晴郎風)。同時に、あれだけの経済チームを揃えておいてこれかよ、というようなことも漏らしている。


個人的には項目3〜5へのコーエンの評価は厳しすぎるような気もする。学校の建物の老朽化は我が国を含め世界各国で問題になっているし(米国は地震地帯が限られるのであまり実感が無いのかもしれないが)、米国のインターネット環境が日本や韓国に遅れを取っているのは事実だし、医療のIT化推進も医療部門の効率化という効果だけでなく、IT業界への波及効果もそれなりにあるだろうし。


ただ、コーエンが項目1について指摘した支出抑制と雇用促進の背反問題については、確かにもう少しきちんと検討して欲しい気がする。推測だが、政治学や法学を専攻し、市民活動家から政治家への道を歩んできたという経歴から考えると、オバママクロ経済学を真に勉強し理解する機会が無かったのではないか? そのことが、こうした政策の「穴」として反映されてしまっているのかもしれない。いくら一流の経済学者を周りに揃えているとは言え、最終的にこれらの項目をピックアップしたのはオバマ自身だろうし、周りの経済学者もさすがに、あんた経済学理解していないみたいだからEcon101を勉強し直してから出直して来い、とは言えないだろうし。

たぶん、そうした点でのオバマの感覚は、本ブログのこのエントリで指摘した一般の人々の素朴な正義感と変わらないのだろう。それはつまり、無駄を無くすのが善、という感覚であり、マクロ経済では無駄が善になり得るということ(クルーグマンのいわゆる鏡の国のアリスの世界)はどうしても理解できないのかもしれない。


ブロガーのknzn氏も、そうした点をこのエントリ(注:11/28付なので上記のオバマ政策の発表前)で指摘している。

And I think he’s quite an intelligent person, with a reasonable layman’s understanding of economics. But every now and then he says the dumbest-ass things.

Apparently, if I understand the press reports correctly, he is saying that he will finance part of his fiscal stimulus by cutting out wasteful and ineffective government spending.


I’m not going to push on the point that wasteful spending could be more effective than useful spending in preventing deflation, but surely wasteful spending is at least almost as effective as useful spending in stimulating the economy. If you increase useful spending while decreasing wasteful spending by the same amount, what you end up with is very little, if any, economic stimulus.

If anything, I’d say it’s just the opposite: when someone loses a wasteful government job, their permanent income declines dramatically, and they’re likely to curtail their spending dramatically. When someone receives a larger tax refund or a larger benefits check, they’re not likely to consider it a significant increase in their permanent income (even if the tax cut is ostensibly permanent), and, under the current environment, they will likely find it prudent to save most of the money for a rainy day, especially seeing that the barometric pressure is already low and falling.

(拙訳)
私は彼(オバマ)が極めて知的な人物だと思うし、素人なりに経済学は理解していると思う。しかし時々彼はおバカなことを言う。

もし私が報道を正しく理解しているならば、彼は財政刺激策の一部の財源を、無駄で非効率な政府支出の削減で賄おうとしているようだ。

以前のエントリで述べた、デフレ対策では無駄な支出の方が有用な支出よりも効果的、という主張*1を蒸し返すつもりはないが、少なくとも景気刺激という点では、無駄な支出が有用な支出と同じくらい効果的なのは確かだ。もし有用な支出を増やす一方で同額だけ無駄な支出を減らしたとしたら、得られる景気刺激は無きに等しいだろう。

(政府の無駄な仕事をしている人の雇用を減らし、その給与分を戻し減税や失業給付に使った場合は)逆効果となるだろう。政府の無駄な仕事を失った人は、恒常所得が激減するので、支出も大きく減らすだろう。戻し減税や給付を受け取った人は、それを(たとえ減税が表向き恒久減税となっていたとしても)恒常所得の増加と見做さず、現在の状況では、悪い時に備えて貯蓄するのが賢明だと思うだろう――特に今のように嵐が近づきつつあるような時には。


さてこの先どうなりますことやら…。

*1:そのエントリでknzn氏は、有用な財政支出は、供給力の向上をもたらし、さらなる価格低下を招く恐れがある、と主張している。小生のこのエントリの模式図で言えば、構造改革の項の【批判】に書いたように、Yfを上昇させて需給ギャップを拡大する恐れがあるということ。