FRBは量的緩和に踏み切ったのか?そうでないのか?

Mark ThomaのブログEconomist's Viewに、不定期で「Fed Watch」というコラムを寄稿しているオレゴン大学の同僚Tim Duyが、今回は、政策漂流と題してFRBの姿勢を厳しく問うている。バーナンキは弾を撃ちつくして、次に何をすれば良いか分からない状態に陥っており、その混乱がFRB議事録に表れているという。
彼が引用した議事録では、FFレートの誘導目標の位置づけについて、委員の意見が分かれている。ある者は、下げ余地が無くなってきたからペースダウンすべきと言い、ある者は、だからこそ大胆に行動すべき、と言う。Duyは、こうした議論に不満を示し、どうせ残り100ベーシスポイントはあまり意味が無いのだから、さっさと0%に切り下げるべき、と主張する。このあたりは、今の日銀の金融政策を巡る議論の写し絵と言える。


では、金利がもはや実質的な意味を失ったから、次は量的緩和か、というと、そのあたりのFRBの姿勢も混乱している、というのがDuyの指摘である。議事録では量的緩和政策への言及は無く、予測サマリで、金利がゼロに達した場合に取り得る別の手段の例として挙げられているに過ぎない。本当に量的緩和政策を打ち出すならば、これこれの目標を達成するまで国債を買い続けるというアナウンスがあるはずだが、それは未だに無く、現時点では依然として金利が第一の政策目標である。にも関わらず、ドナルド・コーン副議長らは、記者会見などで、実質的に量的緩和政策に入ったなどと言っているFRBの首脳陣は、自分達がどういう政策を取っているのか理解していないのではないか、というのがDuyの辛らつな評価である。


こうした厳しい評価はDuyだけではなく、セントルイス連銀の前議長であるウイリアム・プールも、FRBはアナウンス抜きで政策変更をしたようだ、と述べたという。


エコノミストレベッカワイルダーは、準備預金への1%の付利が始まったにも関わらず、FF実効レートが1%を割り込んでいるのはそうした暗黙の政策変更のせいだ、としている。
少し前に、彼女とEconbrowserのジェームズ・ハミルトンは、その謎について頭を悩ませ、付利対象でないGSEや海外の金融機関が貸し手になっているのだろう、と結論付けた*1
ただ、その場合、銀行側はGSEから無限の資金を借りるインセンティブを持つのに(借りた資金をそのままFRBに預ければ、リスク無しで利鞘を稼げるため)、そうしていない、という第二の謎が現れる。これについては、最初、ハミルトンはFDICに銀行が払う75bpの保証料率のためだろう、と推測したが、ワイルダーがその時点では制度がまだ実施に移されていないことを指摘した。そこでハミルトンが読者に意見を募り、1)借り入れを無闇に増やすとDEレシオが悪化するという借り手側の事情*2、2)貸出額を限定したいGSEの貸し手側の事情、という取りあえずの説明で話は落ち着いた。しかし、量的緩和への暗黙の政策変更があったならば、それが最終的な説明になるのでは、というのがワイルダーの指摘である。


なお、Duyはコラムを次の言葉で締めくくっている。

Bernanke needs to step forward and define policy. We need to pressure him into providing that leadership - or to step aside for someone else to do it.

この「someone else」はサマーズになるのだろうか…。

*1:ここでも同様のことが書かれている。

*2:これについてハミルトンは、銀行がリスクフリーの資産によるDEレシオの悪化を気にするくらいの状況ならば、通常の貸し出しもできないのでは、という懸念を漏らしている。