資産価格の理論:私的概論/(9)モジリアニ=ミラーの定理

企業価値評価(2)>

○モジリアニ=ミラー(MM)の定理 = 市場での無裁定条件から導出

Franco Modigliani , Merton H. Miller
“The Cost of Capital, Corporation Finance, and the Theory of Investment”,1958

  ●企業価値と配当政策は無関係
DDMの説明でg=brとなっているが、bを変更してもgが変わるのではない。
むしろgは企業の内部成長率ないし持続可能成長率(sustainable growth rate)として外生的に決まる。
gを無視してbを高く設定しても、rの利益率は確保できない。
また、bを低く設定して配当を高めると、株主の受け取りは増える。しかし、rの利益だけでは増配分を確保できず、外部資金調達が必要になるが、その外部資金調達のコストで増配効果は相殺され、結局企業価値は変わらない。

  ●企業価値と財務構成(自己資本・負債の比率)は無関係
税効果や倒産リスクを無視すれば、資本コストkは、自己資本と負債の構成比には影響されない。
負債Lを取り入れた例でいえば、負債導入前後で総資産が変化しないとすれば(i.e. B0 = B’+ L ならば)、
 E1 = E’+ iL
となり(∵総資産に対する利益率ROAは不変)、その時
 P = P’+ L
となるということ。
その場合
  P'+L =P=\frac{E_1}{k} =\frac{(r_BB'+iL)}{k}=\frac{(k_BP'+iL)}{k}
より
  k=\frac{(k_BP'+iL)}{(P'+L)}
となる。この場合のkを加重平均資本コスト(WACC =Weighted Average Cost of Capital)という。

1985年ノーベル賞モジリアニ


キャッシュフローモデル

Dtキャッシュフローとして一般化
キャッシュフロー=営業利益×(1−法人税率)+減価償却−設備投資−運転資本需要


○EVA(Economic Value Added:経済的付加価値)

米国Stern&Stewart社がキャッシュフローモデルを改善し、独自ブランドとして商品化。

従来のキャッシュフローモデルの考え方では、
現在時点[t=0時点]の割引現在価値
   P=\sum_{t=1}^\infty\frac{D_t}{(1+k_t)^t}
と、現在時点の資本 B0 を比較していた。
EVAの考え方の‘新しい点’は、毎期ベースでその比較を行なうことにある。
ここで
   B_0=\sum_{t=1}^\infty\frac{kB_0}{(1+k)^t}
という恒等式を利用すると
   P-B_0=\sum_{t=1}^\infty\frac{D_t-kB_0}{(1+k)^t}
となる。
Stern&Stewart社の創設者Bennett G. Stewart IIIは、この毎期ベースに分解された右辺の分子の(Dt-kB0)をEVAと名付け、EVAの割引現在価値、即ち左辺の正味現在価値P-B0MVA(Market Value Added)と名付けている。

彼はその著書”The Quest for Value”(1991)で、EVAを資本効率を計測する指標として提唱し、これを高めるのを経営の目標とすべしと説いている。