資産価格の理論:私的概論/(10)金融工学

金融工学

これまで説明したファイナンスのいわば古典的な流れとは別に、高度な数学を駆使したファイナンス理論が全盛を極めている。その基本となるのが、資産価格の動きに関する以下の状態方程式である。
 dP=μP dt + σP dw ・・・価格の対数正規分布
  右辺第1項=トレンド項(時間に比例)、第2項=ボラティリティ項(ブラウン運動
これと伊藤のレンマ:(dw)2 = dtを用いて様々な理論が展開された。


代表的な例が、オプションの理論価格を求めたブラック=ショールズ式(1973年)である。
 Fisher Black, Myron S. Scholes “The Pricing of Options and Corporate Liabilities”,1973

コールオプションの理論価格[図点線]
 C = S N(d_1)-K N(d_2)
 d_1=\frac{ln(S/K)+(R_f+\frac{1}{2}\sigma^2)T}{\sigma sqrt{T}}
 d_2=d_1 - \sigma sqrt{T}
N:累積正規確率分布関数
S:株価、K:行使価格、T:満期までの時間
T=0ではmax{S-K,0}[図太線]


1997年ノーベル賞:ショールズ、マートン


VaR(Value at Risk)や、その他のデリバティブ理論などもこうした考え方の延長にある。


最近の動向:

●物理経済学(Econophysics)
 cf) パリティ1999年10月号:高安秀樹さんのコラム「物理学と経済の最近の出会い」
    (http://www.ge.infm.it/econophysics/, http://www.unifr.ch/econophysics/)
   上述の通り、現在のファイナンス理論は株価の正規分布を仮定しているが、実際はもっと裾が厚い。
   特性指数=1.4の安定分布(R.N.Mantegna, H.E.Stanley:Nature,1995)
   [cf.1.高安(1986)ではマンデルブロの特性指数=1.7という結果を紹介している]
   [cf.2. 特性指数=2…正規分布;安定分布では正規分布のみ2次のモーメントを持つ]
   →LTCMの失敗!?
 カオス/フラクタル複雑系の手法の導入



●マーケット・マイクロストラクチャー
 ブラックマンデー以降盛んに
 需要曲線と供給曲線が交わるところで決まる、とされていた価格形成のメカニズムをより緻密に分析
 キーワード:情報トレーダー、流動性トレーダー、マーケットメーカー


[参考文献]

ポートフォリオ・マネジメント入門―MPT理論とその応用

ポートフォリオ・マネジメント入門―MPT理論とその応用

  • 津村英文、榊原茂樹、青山護「証券投資論 第2版」日本経済新聞社、1993 (←実際に参照した版。商品リンクはなるべく新しい版にリンクした。以下同様。)

証券投資論

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アメリカのポートフォリオ革命

アメリカのポートフォリオ革命

  • Peter L. Bernstein “Capital Ideas: The Improbable Origins of Modern Wall Street”,1992

証券投資の思想革命―ウォール街を変えたノーベル賞経済学者たち

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ビジネス・ゼミナール 企業財務入門

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