軽度な政府の失敗

というNBER論文が上がっている。原題は「Mild Government Failure」で、著者はShang-Jin Wei(コロンビア大学)、Jianhuan Xu(シンガポールマネージメント大学)、Ge Yin(対外経済貿易大学)、Xiaobo Zhang(北京大学)。
以下はその要旨。

A relatively mild form of government failure - for example, bureaucrats can count but do not differentiate quality - can significantly affect the efficacy of industrial policy. We investigate this idea in the context of China's largest pro-innovation industrial policy using a structural model. We find that the return to the subsidy program is -19.7\% (but would be 7.8\% if the mild government failure can be removed). Furthermore, the welfare loss is exacerbated by patent trade.
(拙訳)
比較的軽度な形の政府の失敗――例えば、官僚が数量を把握することができるが質を見分けられない――は、産業政策の効果に大きく影響する可能性がある。我々はこの考えを、構造モデルを用いて、中国の最大のイノーベーション促進産業政策について調べた。我々は、補助金政策のリターンが-19.7%であること(しかし軽度な政府の失敗が除去できれば7.8%になること)を見い出した。また厚生の損失は、特許取引によって悪化する。

It’s Baaack:2020年代のインフレ高騰と非線形のフィリップス曲線の復活

というNBER論文が上がっている。原題は「It’s Baaack: The Surge in Inflation in the 2020s and the Return of the Non-Linear Phillips Curve」で、著者はPierpaolo Benigno(ベルン大)、Gauti B. Eggertsson(ブラウン大)。
以下はその要旨。

This paper proposes a non-linear New Keynesian Phillips curve (Inv-L NK Phillips Curve) to explain the surge of inflation in the 2020s. Economic slack is measured as firms' job vacancies over the number of unemployed workers. After showing empirical evidence of statistically significant nonlinearities, we propose a New Keynesian model with search and matching frictions, complemented by a form of wage rigidity, in the spirit of Phillips (1958), that generates strong nonlinearities. Policy implications include the thesis that appropriate monetary policy can bring inflation down without a significant recession and that the recent inflationary surge was mostly generated by a labor shortage -- i.e. an exceptionally tight labor market.
(拙訳)
本稿は、2020年代のインフレ高騰を説明するために、非線形のニューケインジアンフィリップス曲線(逆L字型NKフィリップス曲線)を提示する。経済のスラックは、企業の求人数の失業者数に対する比率として測定される。統計的に有意な非線形性についての実証結果を示した後に我々は、サーチとマッチングの摩擦のあるニューケインジアンモデルを提示する。そのモデルは一種の賃金硬直性で補完されているが、それはフィリップス(1958)の精神に沿っており、強い非線形性をもたらす。政策的な含意の一つは、適切な金融政策によって大きな景気後退無しにインフレを引き下げることができ、最近のインフレの高騰は主として労働力不足――即ち、並外れて逼迫した労働市場――によってもたらされた、という命題である。

論文をツイッター取り上げたクルーグマンに著者の一人のエガートソンが5/7のツイートで反応し、論文のタイトルをクルーグマンの有名な論文から借用したことにクルーグマンが怒っていないことに安堵するとともに、FRBは余計な景気後退をもたらさないだけの優れた制御力を有しているのか、というクルーグマンの懸念に対して、それは結局政策ラグの話に行き着くと思うが、標準的なモデルではそうしたラグは考慮されておらず、そのため標準モデルの最小限の拡張を目指した今回の研究でも考慮していない、と説明している。同時に、2週間半後のセミナーでの公表までには論文にラグについて盛り込むつもりで、そのためにそれまでは(自分にとって中毒性が高く、かつ、スペリングミスを後から修正できないという点では苦手な)ツイッターは控える、と述べている。

またエガートソンは、論文を解説した前日5/6の連ツイで、2021年9月の日経の経済教室でインフレ予測を大きく外したことが論文執筆のきっかけであったことを明かしている(日本語でしか予測を公けにしなかったのが不幸中の幸いだったものの、それでも公表した予測で根本的な間違いを犯したことから、自分のモデルを真剣に問い直すことになった、との由)。
その連ツイでエガートソンは、求人数と失業者数の比が1を超えるとフィリップス曲線が逆L字型に立ち上がるという実証的関係を図示している。

今回より前に最後にその比率が1を超えた、即ち労働力不足が生じたのは、60年代末(上図の左上の散布図)だったが、その時にインフレは上昇した。それ以前には第一次、第二次世界大戦朝鮮戦争の時に労働力不足が生じたが、それらの時にも下図の通りやはりインフレは上昇している(ただし、価格統制の問題があるので、今回の実証分析からは外したとの由)。

その上で、70年代には予想インフレ上昇により逆L字型の平坦な部分が上がったので(下図のA→B)、それを下げるのにボルカー不況というハードランディングが必要になった、という理論的考察を示している(この理論的枠組みが今回の論文の最大の貢献、との由)。

予想インフレの推移は以下の通り(赤線は実際のインフレ)。

一方、今回は逆L字型の立ち上がった部分に沿ってインフレが上昇した半面、予想インフレは落ち着いているので、下図のように、生産を大きく減らすことなくインフレを減じるソフトランディングが可能だ、とエガートソンは予測する。

その場合、モデル上は失業者数はあまり変わらずに求人数が急低下することになるが、ファーマンから流用した下図では実際にそうなっている、とエガートソンは言う。

それでも軟着陸の可能性は70%、とエガートソンは見積もっている。というのは、利上げによって金融不安など想定外の結果が生じる可能性があるからである。また、モデルが間違っている可能性も僅かながらある、とも述べている。

財政赤字は自らを賄えるか?

というNBER論文が上がっているungated版)。原題は「Can Deficits Finance Themselves?」で、著者はGeorge-Marios Angeletos(ノースウエスタン大)、Chen Lian(UCバークレー)、Christian K. Wolf(MIT)。
以下はその要旨。

We study how fiscal deficits are financed in environments with two key features: (i) nominal rigidity and (ii) a violation of Ricardian equivalence due to finite lives or liquidity constraints. In such environments, deficits contribute to their own financing via two channels: a boom in real economic activity, which expands the tax base, and a surge in inflation, which erodes the real value of nominal government debt. Our main theoretical result relates the potency of such self-financing to the timing of fiscal adjustment. Pushing the fiscal adjustment further into the future helps generate a larger and more persistent boom, leading to more self-financing. Full self-financing is possible in the limit as fiscal adjustment is delayed more and more: the government can run a deficit today, refrain from tax hikes or spending cuts in the future, and nevertheless see its debt converge back to its initial level. We conclude by arguing that a large degree of self-financing is not only theoretically possible but also quantitatively relevant.
(拙訳)
我々は、次の2つの主要な特徴を持つ環境下で財政赤字がどのように賄われるかを調べた:(i) 名目硬直性、および、(ii) 有限な寿命もしくは流動性制約によるリカード等価性の破綻。そうした環境下では、財政赤字は2つの経路によって自らの資金調達に貢献する。即ち、税基盤を拡大する実体経済活動の活発化と、名目政府債務の実質価値を減じるインフレ上昇である。我々の主な理論的な結果は、そうした自己資金調達の可能性を、財政再建のタイミングと関連付ける。財政再建をさらに将来に繰り延べることは、より大型で持続的な好景気を生み出す助けとなり、一層の自己資金調達につながる。財政再建をますます遅らせることによって、極限では完全な自己資金調達が可能になる。政府が今日財政赤字を計上し、将来の増税や歳出削減を控えたとしても、債務が当初の水準に戻るのである。結論では、相当程度の自己資金調達は理論的に可能であるだけでなく、定量的に意味を持つ、と我々は論じる。

導入部では、従来の研究との関連について4点を挙げ、概ね以下のようなことを述べている。

  1. ブランシャールらの「r<g」論と同様に、将来の増税なしで財政赤字が賄えることを示すが、政府債務の実質利子率が経済の実質成長率より低いことは要求せず、ケインズ的な好景気を引き起こすことで賄えることを強調している。その点ではMian=Straub=Sufi*1と共通しているが、彼らの自己資金調達メカニズムは、追加発行した債務がゼロ金利下限においてインフレを惹起することにより政府債務の実質利子率を減じる、というもので、自分たちとは違う。
  2. FTPLにおいて財政赤字の自己資金調達の根拠を示す際には、均衡選択に依拠しているが、特定の均衡が選択されないと政府の予算制約が破られる恐れがあるというその前提は議論の的となっている。ここではリカード等価性の破綻に依拠することで、FTPLとは違う根拠を提示している。そのため、ニューケインジアンモデルの標準的な均衡選択(=「受動的な」財政政策と「能動的な」金融政策)と整合的なものとなり得る。また、FTPLで強調しているインフレによる債務の削減経路よりは、税基盤経路の方を強調しており、定量分析でも実際にそちらが主な要因になっている。
  3. ニューケインジアンの枠組みでの財政政策の研究については既に多くがなされているが、本研究もそれに寄与。
  4. メッセージとしてはデロング=サマーズ*2と共通しているが、彼らは、ミクロ的基礎付けのあるモデル抜きで、自己調達を可能ならしめる財政乗数について高度な計算を展開した。一方、ここでは自己調達を可能ならしめる経済の基本要素の特性を示し、その決定要因を特徴付け、定量的な可能性を評価している。

*1:cf. ここ

*2:cf. ここ

クルーグマン「債務スパイラルは起きない」

債務スパイラルの懸念を否定する連ツイをクルーグマン立てている

Thinking about debt, and some common misconceptions. I thought I'd start with a picture that needs explaining, although it's just a new way to make a point many economists — but not many other people — already know 1/
What got me started was the mail I get every time I write about debt and the debt ceiling — stuff along the lines "you forgot to mention that debt is 100% of GDP and debt service is rising". Of course I didn't forget. But this sort of thing reflects two big misunderstandings 2/
First is that 100% is an especially significant number, and historically unprecedented. But it's a ratio of a stock to a flow; it depends on the convention of measuring GDP on an annual basis. If we used quarterly it would be 400%! 3/
And it's not at all unprecedented, Contemporary Japan is of course far higher. But also note that Britain achieved the Industrial Revolution with debt far above current US levels 4/
Beyond that, many people seem to think that we're heading for a debt spiral: more debt means more interest payments, which requires more borrowing, which means even more debt, and off we go. Sounds intuitive ... but 5/
It's true that CBO projects both a rise in debt/GDP and a rise in debt service/GDP over the next decade. But much of the latter rise doesn't reflect higher debt; it reflects the *assumption* that interest rates will stay high 6/
And even so CBO isn't projecting a debt spiral: the rising debt ratio is the result of projected primary (non-interest) deficits, not interest accumulation. 7/
To show this, I asked what would happen to debt using CBO's projected interest rates, but without primary deficits, so that debt accumulation would come purely from borrowing to pay interest — a pure debt spiral. Again, the picture 8/
So no debt spiral. Economists will know that this is because despite CBO's assumption that rates will stay high, we're still in an r<g world. This is just a different way of making the point. 9/
No doubt some of the responses, if any, will be "But debt is 100% of GDP and debt service is rising!" But I do not think those numbers mean what you think they mean 10/
(拙訳)
債務、および、良くある誤解について考えてみる。追加説明が必要な図から始めてみようかと思うが、ただしこれは、多くの経済学者にとっては既知のことながら、多くの人にとってはそうでないことを強調する新たな方法に過ぎない。

このスレッドを立てたきっかけは、債務と債務上限について書くたびに受け取るメールである。そうしたメールには「貴兄は債務がGDPの100%になっていること、および、元利払い費用が上昇していることを言及し忘れている」といったことが書かれている。もちろん私は忘れたわけではなく、そうした話には2つの大きな誤解が反映されている。
一つ目の誤解は、100%というのが特に重要な数字であり、過去に前例が無い、というものだ。しかしそれはストックとフローの比率であり、GDPを年次で測定するという慣行に依存している。四半期を使うならば、その数字は400%になるのだ!
そして前例が無いわけではまったくない。現在の日本はもちろん遥かに高い。また今の米国を大きく上回る債務水準で英国が産業革命を達成したことも覚えておくべきだろう。
あと、我々は債務スパイラルに向かっていると多くの人が考えているようである。債務が多ければ利払い費も多くなり、そのため借り入れが増え、債務がさらに拡大し、箍が外れてしまう、というわけだ。これは直観的に正しいように思われる…。しかし、だ。
CBOが、今後10年間に債務GDP比率ならびに元利払い費用のGDP比率の両方が上昇する、と予測しているのは事実だ。だが後者の上昇の多くは債務の増加を反映したものではない。それは金利が高止まりするであろうという想定を反映したものだ。

しかもその場合でもCBOは債務スパイラルを予測していない。債務比率の上昇は、予測された基礎的(非利払い)財政赤字の結果であり、利払いが積み重なった結果ではない。
そのことを示すため、CBOの予測金利を用いて、基礎的財政赤字が無い場合、従って債務の蓄積が利払いのための借り入れだけから生じる場合、債務がどうなるかを訊いてみた。純粋な債務スパイラル、ということになる。図を再掲する。

ということで、債務スパイラルは起きない。経済学者はそのことが分かっている。というのは、金利が高止まりするというCBOの想定にもかかわらず、我々は未だr<gの世界にいるからだ。これはそのことを示す別法に過ぎない。
「でも債務はGDPの100%だし元利払い費用は上昇しているではないか!」という反応がまた来るのはまあ間違いなかろう。だがそうした数字が意味することがあなた方が考えていることだとは私は思わない。

キャリートレードから企業間信用へ:非金融企業による金融仲介

というNBER論文が上がっているungated(BIS)版)。原題は「From Carry Trades to Trade Credit: Financial Intermediation by Non-Financial Corporations」で、著者はBryan Hardy(BIS)、Felipe Saffie(バージニア大)。
以下はその要旨。

We use unique firm-level data from Mexico to document that non-financial corporations engage in carry trades by borrowing in foreign currency (FX) and lending in domestic currency, largely in the form of trade credit, accumulating currency risk in the process. We show at a quarterly frequency that the practice of borrowing in FX and extending trade credit is more prevalent when foreign currency borrowing is relatively cheaper than local currency borrowing, and it is associated with expansions in both gross trade credit and sales. Firms that were more active in carry-trades, accumulating currency risk, experienced larger reductions in investment and profits following a large depreciation event. Nevertheless, their extension of trade credit remained stable, insulating their trading partners from the shock. A firm-level panel for 20 emerging countries provide external validity for the link between carry trades and trade credit.
(拙訳)
我々はメキシコの企業レベルの独自のデータを用い、非金融企業が、外貨での借り入れと、主に企業間信用の形での自国通貨での貸し出しによるキャリートレードを行い、その過程で為替リスクを蓄積していることを明らかにする。我々は、外貨での借り入れと企業間信用の拡大という慣行は、自国通貨での借り入れよりも外貨での借り入れが相対的に安価な時により広く行われ、かつ、グロスの企業間信用ならびに売り上げの拡大に関連していることを四半期の頻度において示す。キャリートレードがより活発な企業は、為替リスクを蓄積し、大きな減価が発生した後は投資と利益をより大きく減らす。それにもかかわらず、そうした企業の企業間信用の拡大は安定を維持し、取引相手をショックから遮断する。20の新興国*1についての企業レベルのパネルデータから、キャリートレードと企業間信用の結び付きについて外的妥当性が提供される。

これまで低金利によりしばしばキャリートレードの対象になってきた日本円がこうした取引にどの程度巻き込まれているか知りたいところではあるが、ざっと見た限り論文では具体的な通貨の記述は見当たらなかった(おそらくここで言う外貨はほとんどが米ドルなのかもしれない)。

*1:ungated版によると、アルゼンチン、ブラジル、チリ、コロンビア、チェコ、香港、ハンガリーインドネシア、インド、韓国、メキシコ、マレーシア、ペルー、フィリピン、ポーランド、ロシア、シンガポール、タイ、トルコ、南アフリカ

なぜプーチンはウクライナを侵略したのか? 衰退する専制政治の理論

というNBER論文が上がっている。原題は「Why Did Putin Invade Ukraine? A Theory of Degenerate Autocracy」で、著者はGeorgy Egorov(ノースウエスタン大)、Konstantin Sonin(シカゴ大)。
以下はその要旨。

Many, if not most, personalistic dictatorships end up with a disastrous decision such as Hitler’s attack on the Soviet Union, Hirohito’s government launching a war against the United States, or Putin’s invasion of Ukraine in February 2022. Even if the decision is not ultimately fatal for the regime, such as Mao’s Big Leap Forward or the Pol Pot’s collectivization drive, they typically involve both a monumental miscalculation and an institutional environment in which better-informed subordinates have no chance to prevent the decision from being implemented. We offer a dynamic model of non-democratic politics, in which repression and bad decision-making are self-reinforcing. Repressions reduce the threat, yet raise the stakes for the incumbent; with higher stakes, the incumbent puts more emphasis on loyalty than competence. Our theory sheds light on the mechanism of disastrous individual decisions in highly institutionalized authoritarian regimes.
(拙訳)
大半とは言わないまでも多くの個人独裁は、ヒトラーソ連攻撃、裕仁の政府の対米戦争開始、あるいは2022年2月のプーチンウクライナ侵攻のように、破滅的な決定を最後に下す。毛の大躍進やポルポトの集産化政策のようにその決定が体制にとって最終的な命取りにならない場合でも、そうした決定は、大いなる誤算、および、より良い情報を保有している部下が決定の実施を妨げる機会を持たない制度的な環境、の両方を伴うのが普通である。我々は、抑圧と悪しき意思決定が自己補強的なものとなる非民主政治の動学モデルを提示する。抑圧は脅威を減じる一方で、現指導者がいざという場合に失うものが大きくなる。そうなると現指導者は能力よりも忠誠心に重きを置くようになる。我々の理論は、非常に制度化された全体主義体制における破滅的な個人の決定のメカニズムについて解明の光を投じる。

シカゴ大の論文紹介サイト(ungated版へのリンクもある)では以下の図が掲げられている。

なお、戦前の日本を天皇の個人独裁と捉えている点で著者たちの認識不足は明らかだが、ゲーム理論を用いて類型化された権力構造のモデルを構築することが主眼の研究なので、著者たちの歴史や実際の政治についての認識の水準は結果とはあまり関係なさそうである。

2014年のロシアショックとそのイタリアの企業と銀行への影響

というNBER論文が上がっている昨年9月時点のWP)。原題は「The 2014 Russia Shock and Its Effects on Italian Firms and Banks」で、著者はStefano Federico、Giuseppe Marinelli、Francesco Palazzo(いずれもイタリア銀行)。
以下はその要旨。

We study how a demand shock in an export market propagates to the exporting country’s banking system. Using the dual shocks of sanctions and falling oil prices suffered by Russia in 2014, we investigate the effects on Italian firms and banks more exposed to the Russian market. This event implied a sharp decline in sales for firms with a significant share of sales to Russia, but it did not affect the overall amount of credit available to them. Banks relatively more exposed to Italian exporters to Russia cut their overall credit supply, especially vis-à-vis ex ante risky borrowers, but continued to provide credit towards firms moderately hit by the trade shock, in an attempt to let them cope with the liquidity shortfall. Our results suggest that banks mitigate trade shocks for certain hit firms, while at the same time propagate them to other firms not directly affected by the shock.
(拙訳)
我々は、輸出市場での需要ショックが輸出国の銀行システムにどのように伝播するかを調べた。2014年のロシアが経験した制裁と原油価格下落の二重のショックを利用して我々は、ロシア市場への関わりが大きかったイタリアの企業と銀行への影響を調査した。この出来事は、ロシアでの売り上げの割合が大きい企業の売り上げの急低下を意味したが、それらの企業が利用可能な信用の総量には影響しなかった。イタリアの対ロシア輸出業者との関わりが相対的に大きかった銀行は、特に事前のリスクが既に高かった借り手に対し、信用供給の総量を削減したが、貿易ショックの打撃が緩やかだった企業に対しては、それらの企業に流動性不足に対処させることを意図して、信用供給を続けた。我々の結果は、銀行が、打撃を受けた一部の企業について貿易ショックを緩和した半面、ショックの影響を直接的に受けなかった企業にショックを伝播したことを示している。

WPでは、今回のウクライナ戦争との違いについて、今回は原油価格が高騰したのに対し2014年の時は下落したことを指摘している(そのため前回の方がロシアの輸入需要の低下の影響が識別しやすいとの由)。