中銀の利益分配と資本強化

というBOE論文をMostly Economicsが紹介している。原題は「Central bank profit distribution and recapitalisation」で、著者は Jamie Long(BOE)、Paul Fisher(キングス・カレッジ・ロンドン)。
以下はその要旨。

Central banks retain a portion of their net profits as reserves and distribute the remainder to their finance ministry, typically in the form of a dividend. Few central banks have a reciprocal arrangement in place for covering financial losses with a transfer of capital. This paper reports the findings of a survey of central bank profit distribution and recapitalisation arrangements across 70 jurisdictions and examines the range of features present, such as revaluation accounts and requirements for capital injections. The findings help establish the importance of a robust framework for managing central bank profit distribution and recapitalisation. The presence of such a framework should allow central banks to retain more of profits and access external resources when capital is low, and to function as an income generating asset for the government when capital is high, therefore ensuring both an appropriate use of public funds and the presence of a credible and financially independent central bank that stands ready to act when needed.
(拙訳)
中銀は純利益の一部を準備金として留保し、残余を通常は配当の形で財務省に分配する。財務上の損失をカバーするために双務的な政府からの資本移転の取り決めをしている中銀は極めて少ない。本稿は、70行を対象に中銀の利益分配と資本強化の取り決めを調査したことで見い出された結果を報告し、再評価勘定や資本注入要件などの様々な現行の特徴を調べる。ここで見い出されたことは、中銀の利益分配と資本強化を管理する頑健な枠組みの重要性を明らかにすることに貢献する。そうした枠組みが存在すれば、中銀が留保利益を増やし、資本水準が低い時には外部のリソースにアクセスし、資本水準が高い時には政府にとって収入を生む資産として機能することが可能になる。それによって、公的資金が適切に使用されることと、必要とされる時には行動できる準備が整っている信頼できて財務的に独立した中銀の存在とが保証される。

論文の前半では、中銀の資本の必要性についての賛否両論が紹介されている。論文ではまた、中銀の利益分配と資本強化の取り決めについて最善な慣行と認識されている単一のモデルは現時点では存在しない、としている。そうした状況を反映して、各中銀の制度もそれぞれ独自のものとなっており、論文の表1ではそれらの制度を3つの切り口で以下のようにまとめている。

柔軟な利益分配 未実現利益/損失を分配可能利益の計算から除外 外部リソースへのアクセス 3つの取り決めがすべて存在
中銀数 70行中42行(60%) 70行中24行(34%) 70行中32行(46%) 70行中11行(16%)

ここで柔軟な利益分配は、資本が低水準の時に留保利益を増やすことができ、決まったパーセンテージまで留保できる裁量が中銀にある場合を指している。ただし、留保利益を増やすのに政府の認可が必要な場合は除外している。

論文の付表では各行の制度を個別に記述しているが、日銀については以下のようになっている。

ここで参照されている日本銀行法第53条は以下の通り。

(剰余金の処分)
第五十三条 日本銀行は、各事業年度の損益計算上剰余金を生じたときは、当該剰余金の額の百分の五に相当する金額を、準備金として積み立てなければならない。
2 日本銀行は、特に必要があると認めるときは、前項の規定にかかわらず、財務大臣の認可を受けて、同項の剰余金の額のうち同項の規定により積み立てなければならないとされる額を超える金額を、同項の準備金として積み立てることができる。
3 前二項の規定により積み立てられた準備金は、日本銀行において生じた損失の補てん又は次項の規定による配当に充てる場合を除いては、取り崩してはならない。
4 日本銀行は、財務大臣の認可を受けて、その出資者に対し、各事業年度の損益計算上の剰余金の配当をすることができる。ただし、払込出資金額に対する当該剰余金の配当の率は、年百分の五の割合を超えてはならない。
5 日本銀行は、各事業年度の損益計算上の剰余金の額から、第一項又は第二項の規定により積み立てた金額及び前項の規定による配当の金額の合計額を控除した残額を、当該各事業年度終了後二月以内に、国庫に納付しなければならない。
6 政府は、前項の規定による各事業年度に係る国庫納付金の一部を、政令で定めるところにより、当該各事業年度中において概算で納付させることができる。
7 第五項の規定による納付金の額は、法人税法(昭和四十年法律第三十四号)の規定による所得及び地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)の規定による事業税に係る所得の金額の計算上、損金の額に算入する。
8 前三項に定めるもののほか、第五項の規定による納付金に関し必要な事項は、政令で定める。
9 第七条第四項の規定は、第二項及び第四項の認可について準用する。