労働分配率はなぜ低下した?

ノアピニオン氏がブルームバーグ論説で、近年の労働分配率低下を説明する4つの仮説を紹介している

  1. グローバル化仮説
    • 中印経済が世界に開かれ、インターネットやコンテナ輸送のようなグローバル化技術の発明と相俟って、低賃金労働が世界市場に溢れ出た。多国籍企業は安価な労働力を追い求め、利益を上げた。
    • 貿易と製造業部門で労働所得が最も低下したことを示したMichael Elsby、Bart Hobijn、Asegul Sahinの2013年の論文はその結果を支持している。
    • しかし、中国でも労働分配率低下している。中国からすれば、貿易に門戸を開放したことにより新しい資本が流れ込んだため、資本分配率が下がって然るべき。中国の統計が正しいとするならば、グローバル化による説明はやや説得力に欠ける。
  2. ロボット仮説
    • 技術が安価になるにつれ、労働者が機械に置き換わっている。
    • Lukas KarabarbounisとBrent Neimanの2013年の論文は、資本財の費用が低下していることを発見し、企業が人的労働を技術で置き換えている、と結論した。この結論は、産業ロボットのような新技術の採用によって賃金が悪影響を受けることを示した他の研究結果とも整合的。
  3. 独占力仮説
    • David Autor、David Dorn、Lawrence Katz、Christina Patterson、John Van Reenenの最近の研究によれば、労働分配率の低下は経済全体では起きているものの、企業内では起きていない。即ち、ロボットが本当に安価になったのならばそうするであろうように企業自身が労働者を機械で置き換えているわけではなく、経済が、相対的に人的労働を使う多数の小企業から、非常に資本集約的な少数の大企業に資源をシフトしている。Autorらは、独占力の増大が労働分配率の低下をもたらした、としている。
  4. 地主仮説
    • 大企業ではなく地主が労働者からお金を掠め取っている、という仮説。
    • ピケティの研究を分析したMatt Rognlieは、国民所得統計において地主への資金の流れが増大していることを発見した。また、Dietrich Vollrathは、Simcha Barkaiの論文を調べ、持ち家からの収益が急上昇していることを発見した


この後ノアピニオン氏は、クルーグマンブログ記事を援用しつつ、グローバル化仮説とロボット仮説と独占力仮説が、同じ現象のそれぞれ別の個所を説明している可能性を指摘している*1

*1:同氏の自ブログ記事邦訳)はその点を詳説している。