を試みた論文の内容をBOEブログで著者(同行のSilvia Miranda-Agrippino)が紹介している(H/T Economist's View)。
Miranda-Agrippinoは、金融政策の公表による金利先物の価格変動を以下の3要素に分解している*1。
第一項のeは純粋なサプライズ要因、第二項と第三項は市場の経済予想と中銀の経済予想が違ったことに起因する要因である(Ωが経済予想、添え字のMが市場、CBが中銀を表す*2)。第二項の関数fは政策ルールに当該の経済予想を当てはめた場合の金利の変化幅、第三項の関数ζはそれに上乗せするプレミアム(満期まで保持する場合のリスクに対する補償)である。
この式によれば、サプライズが純粋なサプライズとして観測できるのは中銀の経済予想と市場の経済予想が一致している場合のみ、ということになるが、その前提についてはローマー=ローマー(2000)で疑義が出されている*3。
実際、何も加工していないFF金利3か月先物のサプライズを使って、政策金利の1%引き上げという引き締め的な金融政策に対する米経済変数の反応を標準的なVARで計測すると、以下のように、鉱工業生産と失業率は理論と逆方向に動いてしまう(生産は上昇し、失業率は低下してしまう)、とのことである。
そこでMiranda-Agrippinoは、ローマー=ローマー(2004)を参考に、以下の式でサプライズを「クリーニング(cleaning)」している*4。
ここで残差のmps*がクリーニング後のサプライズである。このサプライズを使うと、下図の赤線のように、鉱工業生産と失業率が理論通りに動く、という*5。
英国についても同様の結果が得られたとのことである。
*1:ここでΔtは30分としている。
*2:Miranda-Agrippinoは、市場の予想について言及する時は‘expected’/’unexpected’、中銀の予想について言及する時は‘anticipated’/’unanticipated’と用語を使い分けている。
*3:そのほかリスクプレミアムの時間的変動もサプライズを「汚す(contaminate)」原因になるが、これについてMiranda-Agrippinoは、サプライズが事前情報で予見可能という回帰によって問題にならないことが検証された、としている。
*4:この式は論文本文から引用。
*5:濃い青線は前の図と同じ未加工のサプライズの結果、水色線は中銀がVAR中の情報にのみ反応した場合の結果(FF金利の順番を最後にした標準的なコレスキー分解)。また、VARは3つの分析で同じものを使用したとの由。