クリーンな電力の経済的影響

というNBER論文が上がっている。原題は「The Economic Impacts of Clean Power」で、著者はCostas Arkolakis(イェール大)、Conor Walsh(コロンビア大)。
以下はその要旨。

In this paper we assess the economic impacts of moving to a renewable-dominated grid in the US. We use projections of capital costs to develop price bounds on future wholesale power prices at the local geographic level. We then use a class of spatial general equilibrium models to estimate the effect on wages and output of prices falling below these bounds in the medium term. Power prices fall anywhere between 20% and 80%, depending on local solar resources, leading to an aggregate real wage gain of 2-3%. Over the longer term, we show how moving to clean power represents a qualitative change in the aggregate growth process, alleviating the “resource drag” that has slowed recent productivity growth in the US.
(拙訳)
本稿で我々は、米国における再生可能エネルギーが支配的な電力網への移行の経済的影響を評価した。我々は資本コストの見通しを用いて、将来の電力卸売価格の限界を地域の地理レベルで推計した。次に我々は、空間一般均衡モデルの一種を用いて、価格が中期的にその限界以下に低下することの賃金と生産への影響を推計した。電力価格は、地域の太陽光資源次第で20%から80%の間のいずれかの価格に低下し、マクロの実質賃金の利得は2-3%になる。長期的にクリーンな電力への移行がマクロの成長過程の質的変化を如何に代表するかを我々は示す。その移行は、最近の米国の生産性成長を鈍化させてきた「資源の足枷」を緩和する。

これはブルッキングス研究所秋セミナーで提示された論文で、論文ドラフトまとめ記事スライドがそのサイトに上がっている。討論者はシカゴ大の伊藤公一朗氏(スライド)とミネアポリス連銀のNeil R. Mehrotra(スライド)が務めているが、両者とも大容量電池コストの低下見通しが楽観的過ぎるのでは、と指摘している。

以下は論文の予想電力価格の図。日照量が多く人口密度の低い西部で低い価格になることが示されている。

伊藤氏は太陽光発電風力発電の生産性を示した論文の付録の以下の図を引いて、太陽光と風力は地理的にほぼ正反対とも言える傾向を示しているので、専ら太陽光に焦点を当てた論文の結果は、風量については違う結果になるのでは、と指摘している。

伊藤氏はその他、電力網につながるための待ち行列問題(今は平均5年近く待つ必要があるとの由)と、送電容量の制約による出力抑制の問題を課題として挙げている。