通貨の堕落とインフレ:チリ、1970-1973

というNBER論文が上がっている。原題は「The Debauchery of Currency and Inflation: Chile, 1970-1973」で、著者はSebastian Edwards(UCLA)。
以下はその要旨。

In this essay, I analyze Salvador Allende’s economic policies in Chile during the early 1970s. I argue that the explosion of inflation during his administration (above 1,500% on a six-month annualized measure) was predictable, and that the government’s response to it, through massive and strict price controls, generated acute macroeconomic imbalances. I postulate that the combination of runaway inflation, shortages, and black markets generated major disaffection among the middle class and that that unhappiness reduced the support for the Unidad Popular government.
(拙訳)
本エッセイで私は、1970年代初めのチリにおけるサルバドール・アジェンデの経済政策を分析した。彼の在任期間中のインフレの発散(6カ月の年率指標で1500%以上)は予測可能だったものであり、また、大規模かつ厳格な価格統制を通じた政府の対応は深刻なマクロ経済の不均衡を招いた、と私は論じる。暴騰したインフレ、物不足、および闇市が合わさって中産階級に大きな不満を生み出し、その不満が人民連合政府への支持を減らした、と私は考える。

ちなみに7月時点のWPの要旨では、末尾の「that unhappiness reduced the support for the Unidad Popular government」の後に「and paved the way to the coup d’état in September 1973」という文言があったが、上のNBER版では削られている(シカゴ・ボーイズに気兼ねしたわけでもないだろうが…*1)。
また、同WPの冒頭では、レーニンが述べてケインズが広めた「資本主義を破壊する最高の方法は通貨を堕落させること」という警句を引用しつつ、レーニンケインズも通貨の堕落は如何なる体制においても政府への支持を損なうことを見落としていた、と斬り捨てている。

*1:著者のサイトのCVを見ると、1975年にチリ・カトリック大学を卒業しており、まさにアジェンデ政権期からピノチェト政権期に掛けての混乱期に大学時代を送ったようである。そしてその後はシカゴ大学修士号と博士号を取得している。