ドルスワップラインの高頻度の効果

というNBER論文が上がっているungated版)。原題は「The High Frequency Effects of Dollar Swap Lines」で、著者はRohan Kekre(シカゴ大)、Moritz Lenel(プリンストン大)。
以下はその要旨。

We study the effects of dollar swap lines using high frequency responses in asset prices around policy announcements. News about expanded dollar swap lines causes a reduction in liquidity premia, compression of deviations from covered interest parity (CIP), and depreciation of the dollar. Equity prices rise and the VIX falls, while the response of long-term government bond prices is mixed. The cross-section of high frequency responses implies that swap lines affect the dollar factor or the price of risk. Our findings are qualitatively consistent with models relating the supply of dollar liquidity to the broader economy.
(拙訳)
我々は、政策発表前後の資産価格における高頻度の反応を用いて、ドルのスワップラインの効果を調べた。ドルのスワップラインの拡大に関するニュースは、流動性プレミアムの減少、カバー付き金利平価(CIP)からの乖離の圧縮、およびドルの減価をもたらす。株価は上昇し、VIXは低下する半面、長期国債価格の反応はまちまちである。高頻度の反応のクロスセクションは、スワップラインがドル要因もしくはリスク価格に影響することを示している。我々の発見は、ドルの流動性供給を幅広く経済に関連付けるモデルと定性的に整合的である。

序文によると、FRBがドルスワップラインで外貨と引き換えに海外中銀にドルを貸し出し、そのドルを海外中銀が自国内の機関に貸し出す、という枠組みは世界の政策対応の一環となり、コロナ禍においては2020年5月までに海外中銀はスワップラインで4500億ドルを借り入れたという。これは危機の間に流動性供給策によって拡大された信用のほぼすべてに相当し、当時のFRBのバランスシート拡大幅の2割近くになったとの由。ドルスワップラインの効果を評価するのは、まさにドル需要の拡大期に実施されるために需要ショックと政策効果を分離するのが難しいこと、および、他の金融緩和策も同時に実施されるため単独の効果を分離するのがやはり難しいこと、の2点において困難が伴うが、今回の研究では高頻度の推計を使うことでその困難を克服したとのことである。また、2020年3月の政策公表に焦点を当てたが、得られた結果は2008年9-10月の政策公表に対しても頑健であったとの由。