サマーズ銀行危機を語る

サマーズがHarvard Gazetteのインタビューに答える形で今回の銀行危機について語っている(H/T サマーズがリツイートしたハーバードBelfer Centerのツイート)。以下はその概要。

  • 事故には常に多くの原因がある。今回のことは、以下のいずれかが行われていたら起きなかった:
    • 当該銀行が真面目にリスク管理を行っていたら
    • 監督当局が仕事をしていたら
    • 銀行規制が、銀行の保有する資産について簿価ではなく時価を反映するようにしていたら
    • 金利の急上昇が無かったら
    • 顕在化した問題に当該銀行がもっと素早く反応していたら
  • ということで、多くの様々な原因となる要因があった。ただ、監督と規制の重大な過失であったことは確かだ。
  • 地震があれば、余震を懸念するのは根拠のあることだ。シリコンバレー銀行の件から数日経過した今現在、欧州の金融機関にに顕著な緊張が生じている。金融面での余波があるだろう。あらゆる水準の融資に余波が及ぶ可能性があり、従って米国と世界の経済にも影響が及ぶ可能性がある。それは銀行が警戒を強めるためかもしれないし、規制が引き締められるためかもしれない。
  • このことが信用供給に影響するのは疑いないが、その規模はまだ分からない。地銀の中にも問題が無い銀行は多いし、地銀は銀行システムの一部に過ぎない。また、米国の信用供給は銀行システム経由のものよりも資本市場経由のものの方が遥かに多い。従って、今回の件の収縮的な影響の大きさを判断するのはまだ早い。
  • 信認の問題と預金引き出しに直面している銀行に問題が起きる。信用供給の減少は、投資と経済活動の水準に影響し、それが借り手の経済的健全性に影響する。そうした影響の規模はまだ分からないが、リスクはあると思う。米国においては、オフィスビルのように商業用不動産の一部に負荷が生じている時期に、地銀が商業用不動産に貸し出しを集中させていた、という事実は警戒を要するのではないか。
  • 議会が新たな法律を作らなくても、規制当局は裁量の範囲内で多くの実行権限を有している。例えば:
    • 適切と思われるストレステストを設計する
    • 資本の構成要素と測定方法を定義する
    • 銀行が健全な状態にあって営業を継続できるかどうかを認定する、もしくは否認する
  • ただ、バランスを取るのは難しい:
    • 安全のために規制したい一方で、貸し渋りを増幅させたくはない
    • 財務面での判断ミスを犯した機関や個人の説明責任を最大化したい一方で、信用フローへの信認を維持したい
  • これは規制当局にとっての大いなる課題であると同時に、将来の政策のために今回の経験からの教訓を汲み取ろうとする学者にとっても大いなる課題となっている。
  • 2008年の金融危機後に実施された銀行規制の抜本的改革が継続していれば*1、事態はもっと良い状況だっただろう。その改革の功績の多くは、FRB理事時代にそうした改革を先導したダン・タルーロ・ハーバードロースクール教授に帰せられる。だが残念ながら、FRBのタルーロの後継者は、他の多くのFRB理事の支持のもとで、2018年にそうした重要な改革の多くを元に戻してしまった。それによりストレステストが緩和され、中堅銀行への規制が緩められた。後で振り返れば、そうした政策は重大な過ちだったと考えられることになると思う。しかも、それらの政策の中には超党派のそれなりの支持の下で法制化されたものさえある。
  • 経済見通しに影響するものは何であれ、FRBの意思決定に影響する。今回の問題が生じる前は、次週の金利引き上げは50ベーシスポイントの可能性がかなり高いと思っていた。今はその可能性は極めて低い。より小幅の25ベーシスポイントの引き上げを行うかどうかは現時点では分からない。
  • こうした金融面の緊張は、FRBがインフレから焦点を外す言い訳にはならないし、すべきでもない。ただ、経済状況を把握した上でそうした焦点を維持すべきではある。既に起きたことにより、間違いなく経済を収縮させる方向の変化があった。

*1:原文は「~が無ければ(but for)」となっているが、「~があれば」でないと意味が通じないように思われるので、ここではそのように訳した。