ドイツのターゲットシステム批判と中銀資本の役割の理解

というNBER論文が上がっているungated版が掲載されている著者のページ)。原題は「Understanding the German Criticism of the Target System and the Role of Central Bank capital」で、著者はボッコーニ大のRoberto Perotti。
以下はその要旨。

Criticism of the Target system by a group of central European scholars has become a widespread argument against the policies of the European Central Bank and even the integrity of the monetary union, and even standard fare in the media and in the political debate in Germany. Most academics and practitioners that have participated in the debate have been dismissive of the German preoccupations. In this paper, I first try and clarify the many remaining misunderstandings about the workings and implications of the Target system. I propose a unified, systematic and simple approach to the study of the workings of the Target system in response to different shocks and in comparison with different alternative regimes. I then argue that the German criticism of the Target system is not so unfounded after all, and should be taken seriously, both on theoretical grounds and for its political implications.
(拙訳)
中欧の学者の一団によるターゲットシステム*1への批判は、欧州中央銀行の政策への幅広い批判、さらには通貨同盟の一貫性への幅広い批判となり、ドイツのメディアや政治討論では標準的な議論となるに至った。討論に参加した大半の学者や実務家は、ドイツの先入観に対して否定的である。本稿で私はまず、ターゲットシステムの機能と意味について未だに多い誤解を明らかにしようと努める。私は、多様なショックに対応するターゲットシステムの機能を他の様々な制度と比較しながら研究するための、統一されたシステマティックで単純な手法を提示する。次に私は、ターゲットシステムへのドイツの批判は、理論的基盤においても政治的意味合いにおいても実はそれほど根拠が無いものではなく、真剣に受け止めるべきものである、と論じる。

以下はungated版の導入部で述べられている論文の結論*2

  1. ある種の論者の議論に反する話だが、ドイツのターゲット債権のデフォルトは、固定相場制や清算を備えたターゲットシステムのような他の金融制度におけるのとは異なり、ドイツの納税者の実物資源の喪失となる。
  2. これも一般の意見に反する話だが、前項の結論は、ターゲット債権の蓄積の要因には依存しない。即ち、(それ自体は一国の対外資産のポジションを変化させない)キャピタルフローの帰結であるか、経常黒字の結果であるかは関係ない。
  3. ターゲット債権の大規模なデフォルトによりブンデスバンクの通常資本が大きなマイナスとなれば、同行はトリレンマに直面する。即ち、政府による即座の資本注入に応じるか、長期に亘る補助金の流列という遅延した資本注入を受けるか、シニョリッジを拡大してインフレ目標達成を諦めるか、である。最初の二つの選択肢は中銀の独立性を危うくし、三番目の選択肢は同行が望まぬ金融政策のスタンスを取ることを余儀なくさせる。
  4. 不換紙幣の世界では中銀は資本が多少マイナスになっても通常業務を継続できることはよく知られており、そのため前項のトリレンマに立ち向かうことは必須ではない。しかし実際には、中央銀行家と大半の政治家にとってマイナスの資本は受け入れ難いものである。従って、中銀は資本注入を受けることになる。ドイツの場合は憲法裁判所によってその原則が確認されており、ECB自身もこの問題については強硬な立場を取っている。
  5. ターゲットのデフォルトと、それに伴うブンデスバンクのマイナス資本は、これまでにこの分野で研究されてきたほぼすべてのマイナス資本の事例を軽く超える規模になり得る。これは中銀にとっても一般にとっても未踏の領域であり、経済学よりも心理学が大きな役割を演じ得る。
  6. これも多くの論者の議論に反する話だが、ターゲットのバランスシートとそのデフォルトリスクはユーロ圏の金融政策に容易に影響する。ユーロ圏の金融政策がコンセンサスによって決定されるのは事実だが、大きなターゲット債権はおそらく他国の威嚇点を引き上げ、デフォルトリスクを減じるためにドイツがより緩和的なユーロ圏政策を受け入れることを余儀なくさせる。

*1:cf. ECBの説明

*2:論文ではFirstからSeventhまで挙げられているが、うちFifthが抜けている。