インドの低いCovid-19の致死率を読み解く

というNBER論文が上がっている。原題は「Decoding India's Low Covid-19 Case Fatality rate」で、著者はMinu Philip(NYU)、Debraj Ray(同)、S. Subramanian(独立研究者)。
以下はその要旨。

India’s case fatality rate (CFR) under covid-19 is strikingly low, trending from 3% or more, to a current level of around 2.2%. The world average rate is far higher, at around 4%. Several observers have noted that this difference is at least partly due to India’s younger age distribution. In this paper, we use age-specific fatality rates from 14 comparison countries, coupled with India’s distribution of covid-19 cases to “predict" what India’s CFR would be with those age-specific rates. In most cases, those predictions are lower than India’s actual performance, suggesting that India’s CFR is, if anything, too high rather than too low. We supplement the prediction exercises by the novel application of a decomposition technique, and we additionally account for time lags between case incidence and death, for a more relevant cross-country perspective in the growth phase of the pandemic.
(拙訳)
インドのCovid-19致死率(CFR)は著しく低く、3%強から現在は2.2%付近にまで低下してきている。世界平均は遥かに高く、4%程度である。幾人かの論者は、この差は少なくとも部分的にはインドの年齢構成が若いためである、と述べた。本稿で我々は、14の比較対象国における年齢別の致死率を利用し、インドのcovid感染分布と組み合わせて、その年齢別の致死率ならばインドのCFRがどうなるかを「予測」した。大半の場合においてその予測はインドの実際の結果を下回り、インドのCFRはどちらかといえば低過ぎるというよりは高過ぎることを示唆した。我々はこの予測作業を新たな分解技法の適用により補完した。また、感染と死亡の間のタイムラグを考慮した。これは、パンデミックの拡大期における国同士の比較をより的確に行うためである。


以下は論文の表2。日本も対象に含まれており(ソースは東洋経済オンラインとの由)、インドの年齢分布に引き直したCFRはインドの実際のCFRを下回っているほか、中国の計算値も下回っている(中国の7月の値はインドの実際の値を上回っている)。
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以下はCFRをインドを基準として感染効果(incidence effect)と致死率効果(fatality effect)に分解した表4。ここで感染効果は、年齢層別CFRの二国間平均を年齢層ウェイトの差で加重して合計した値で、比較国がより高齢ならばプラスになる。致死率効果は、年齢層別CFRの差を年齢層ウェイトの二国間平均で加重して合計した値で、インドの年齢層別CFRが全般に比較国より高ければマイナスになる。6/20と7/30の日本は感染効果はインドを上回っているが、致死率効果はインドを下回っている。ただし7/10は両効果共にインドを上回っている。
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以下は感染と同時期のCFRだけではなくx日後(x=10,14)のCFR(lagged CFR=LCFR)について表2と同様の計算を行った表5。
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以下はx=14のLCFRについて表4と同様の分解を行った表6。こちらでは7/10も致死率効果がインドを下回っている(青字になっていないのは誤植と思われる)。
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