ふと、かつて温暖化対策の行き過ぎを諌めたビョルン・ロンボルグはグレタ・トゥーンベリについて何か言っているのかな、とぐぐってみたところ、9月末にこのような論説を書いていることを知った。以下はその概要。
- 人間が気候変動の科学を理解して行動しないことは「悪」であり、気候変動によって「人が死んで」おり、あと8年余りで炭素の排出余地は尽きてしまうため、2028年までに化石燃料で動くものをすべて閉鎖すべし、というグレタ・トゥーンベリの国連演説は、良く見られる主張であるが、根本的に間違っている。確かに気候変動は人為的な原因で現実に生じているが、気候変動で世界が終わるという彼女の見方は根拠が無い。IPCCによれば、2070年までの気候変動の影響は、生態系への影響も含めても、平均所得の0.2-2%の減少に相当する。その時までに、地球上の各人の所得は300-500%向上している。
- 1世紀前の生活はつらいものだったが、多量のエネルギーにより生活は改善した。薪拾いに何時間も掛ける労力や煙による屋内汚染が無くなり、冷暖房や輸送や光熱や食料や機会がもたらされ、平均寿命は倍に伸びた。その大部分が化石燃料由来である多量のエネルギーは、過去25年間だけでも10億以上の人々を貧困から脱却させた。これは悪ではなく、それとは正反対のものである。
- トゥーンベリ氏は気候変動は人々の死を意味すると考えているが、実際には気候による災害で1世紀前には毎年50万人が命を落としていた。今日では、気温は上がったものの、貧困が減り対策が進んだため、干ばつや洪水やハリケーンや極端な気温変化による死者は毎年2万人に過ぎない。これは95%の減少で、道徳的に称賛すべき結果である。
- 世界の化石燃料の使用を2028年までに終わらせるというのは欠陥のある計画である。というのは、化石燃料に取って代わるまでに開発が進んだグリーンエネルギーは存在しないからである。無理矢理に移行すれば世界的な大惨事をもたらし、大半の人々は昔の辛い生活に戻る羽目になる。とりわけ開発途上国が、化石燃料を増やすことを欲しても減らすことを欲しないのはそれが理由。彼らはより多くの人々の生活を快適なものとしたいのである。
- 必要なのは、中印を含めすべての国が切り換えられるような、化石燃料より優れた低炭素エネルギーを開発すること。そのためにはグリーンエネルギーの研究開発への投資を劇的に増やす必要があるが、それは過去数十年間に我々が特にできなかったことである。できなかった理由は、活動家が、準備ができていない解決策を一貫して要求してきたためである。
- 2028年までに化石燃料を削減しなければ若い世代は我々を許さないとトゥーンベリ氏は言うが、これは偏狭な先進国の見方である。国連が世界の一千万の人々に優先順位を尋ねたところ、上位に上がった5つの問題は健康、教育、仕事、腐敗、栄養だった。即ち、人々は、自分たちの子供が治療が容易な病気で死なないこと、まともな教育を受けること、飢え死にしないことを望んでいる。気候変動は16の選択肢の最下位だった。それは、この問題が重要でないためではなく、大半の人々にとって他の問題がより切迫しているからである。
- 問題は、気候変動がますます他の問題を押し退けていることにある。例えば、世界で貧困に喘ぐ人々の優先順位に真っ向から反し、今や開発援助全体の3分の1は気候変動に充てられている。グリーンエネルギーの研究開発への投資を増やして気候変動問題に対処すべきではあるが、貧困、健康、教育、栄養という問題への対処よりも気候変動を優先したならば、世界の若者世代の大半は我々を決して許さないだろう。