規模の経済ではなく市場支配力が米経済を左右している

という主旨の記事を、連邦取引委員会(FTC)と連邦通信委員会FCC)の元エコノミストで、現在はアメリカン大学の法科大学院で研究教授を務めるJonathan B. BakerがProMarketに書いている。FTCは、「21世紀の競争と消費者保護(Competition and Consumer Protection in the 21st Century)」というテーマの下、この秋から冬にかけて様々なトピックについてヒアリングを行っており、Bakerは9/13のヒアリングに呼ばれている。ProMarketはFTCヒアリングに呼ばれた人の多くに寄稿してもらっており、これもその一つとの由。
以下はBakerのProMarket記事の概要。

  • 多くの産業で利益率と集中が高まり、経済の活力が落ちていることは、市場支配力の増大で良く説明できる。その他の説明としては、規模の経済の増大と、競争的な市場で新たな情報技術を最初に採用した企業の一時的なリターン、という無害説がある。
  • 無害説は、情報技術投資の高い固定費用ネットワーク効果の重要性、ならびに市場の地理的な拡大により当初は説得力があった。しかし、米国では市場支配力が重要であり、かつ増大しつつある、という理由として自分がヒアリング示した9つのポイントのうち6つは、その説明と整合しない。自分はヒアリングで以下の点を示す証拠を示した。
    • 反競争的な連合、合併、排除が十分に抑止されていない
    • 市場支配力は耐久力がある
    • 金融投資家が競合する企業の株式の保有を増やしたことは、競争を和らげた
    • 競争に対する政府の抑制は増大した
  • 以上の理由の一つ一つは決定的なものではないが、それぞれの弱点は違うため、全体では20世紀から21世紀にかけての市場支配力の増大につながっている。
  • 残りの3つの理由、即ち、支配的なブラットフォームの成長、多くの産業での集中と利益の上昇、経済の活力低下については、無害説でも説明もできる。しかしこれらのポイントに関する証拠は市場支配力の増大とも整合的である。
    • 支配的なプラットフォームの成長は、規模の経済と最初の参入企業の利点に因るところが大きいかもしれないが、それだけではない。というのは、そうしたプラットフォームは競合相手を排除し市場支配力を発揮する力を持っているからである。
    • 規模の経済と、新技術の初期の採用者のレントが、多くの産業で集中と利益率の上昇に寄与した。しかし、そのように集中した市場で企業が市場支配力を発揮する、という独立した証拠も数多く存在する。高い固定費用がどちらの方向にも作用することを考えると、それは驚くに値しない。
    • 経済活力の低下に関する証拠の中には、両方の説明と整合的なものもある。例えば、GDPにおける利益のシェアの上昇や、最も利益を上げている企業と最も利益を上げていない企業の会計的な利益率の差の拡大である。しかし、参入率の低下や、企業や工場の生産性が高まる時にその拡大率が低下すること、および、設備投資の長期的な低下は、無害説と整合的ではない。また、金融市場は、企業利益の流列のリスクが全般的に下がっていると見ているように思われる。無害説が示唆するように経済活力が高まっているならば、リスクは上昇している、と見られるはずである。


Bakerは昨年のEquitable Growthへの寄稿でこのテーマについて書いたほか、以下の近刊も著したとのこと。

The Antitrust Paradigm: Restoring a Competitive Economy

The Antitrust Paradigm: Restoring a Competitive Economy