ニューヨーカー誌でも取り上げられているが、COREという新しい無料のオンライン経済学教科書が話題を呼んでいる。表題のVoxEU記事(原題は「A new paradigm for the introductory course in economics」)で、著者のうちの2人(Samuel Bowles、Wendy Carlin)が概要を紹介している(H/T Economist's View、Mostly Economics)。
以下は同記事で、その教科書と従来の教科書の考え方の違いを説明するために掲げられた2つの表。
テーマ |
サミュエルソン的なベンチマーク |
現在の経済学およびCOREのベンチマーク |
人々 |
将来を予見し、利己主義的 |
認知には限界があり、社会規範や公平性や互恵主義といった利己主義以外の動機を持つ |
相互作用 |
競争市場での価格受容者間で作用 |
価格設定者や金利や賃金設定者、および、戦略的相互作用や非市場的相互作用が含まれる |
情報 |
完全 |
不完全、非対称的、裏付けできないのが普通 |
契約 |
完全で、コストゼロで履行を強要できる |
労働市場や信用市場では努力や勤勉について不完全なほか、渋滞や知識といった外部の影響について不完全 |
制度 |
市場、私有財産、政府など |
非公式な規則(規範)、企業、組合、銀行も含む |
歴史 |
概ね無視 |
別のゲームの規則や変化の過程についてデータを供給してくれる |
人々同士の違い |
買い手と売り手の間の嗜好や予算制約の違いに限定 |
雇用者と被雇用者、貸し手と借り手といった非対称的な立場も含む |
力 |
市場の力、政治的な力 |
労働市場や信用市場やそれ以外の市場におけるエージェントに対するプリンシパルの力も含む |
経済的レント |
「レントシーキング」を通じて非効率性をもたらす |
上手く機能している民間経済でも自然に生じ、イノベーションや勤勉へのインセンティブをもたらす |
安定性と不安定性 |
経済は自己安定的である |
安定性と不安定性はともに経済の特性である |
評価 |
まだ得られていない相互の利益の存在に限定(パレート非効率性) |
公平性も含む |
世界の問題 |
入門課程で欠けていることが多い基本的な概念 |
富の創造、イノベーション、成長 |
シュンペーター的な(イノベーションの)レント、不均衡 |
環境の持続可能性 |
非市場的な社会の相互作用、他者を考慮する嗜好 |
不平等 |
経済レント、交渉力、制度、公平性 |
失業や変動 |
労働市場や信用市場での不完全な契約 |
不安定性 |
情報としての価格、および、価格設定の動学 |