アセモグル=ロビンソンの「直線史観」

12/3エントリでアセモグル=ロビンソンvsサックスの論争を紹介したが、Coordination Problemブログ(旧名:The Austrian Economists*1)経由で、サックスが自HPで反論をまとめたことを知った。そこでサックスは、「I thank them for their response, even if their tone was a bit surprising」とチクリと皮肉りつつ、12/3エントリで小生が「両者の意見の違いが鮮明になった」と評した文章を引用し、以下のように述べている。

This is a useful summary of our differences. I believe that several things matter for the diverse patterns of economic development, while they believe that one big thing is the key: political institutions. Yet wishing for such a focused framework doesn’t make it accurate. Choosing between these approaches is not a matter of style or ideology, but of the evidence.
(拙訳)
これは我々の意見の相違に関する役に立つ要約だ。私は経済発展の様々なパターンには複数の事物が重要だと信じるが、彼らは一つの大きな事物、即ち政治制度が鍵だと信じている。そうした焦点を絞った枠組みを願うことは、それが正確であることを意味するわけではない。どの手法を採用するかはスタイルやイデオロギーに問題ではなく、実証の問題である。

12/3エントリで小生は、サックスは「(ファイナンスの世界でCAPMの代わりとなる実証モデルを打ち出した)ファーマらの実証主義者の立場に立っている」と書いたが、ここではまさに本人がその立場を明確に打ち出している。


またサックスは、アセモグル=ロビンソンが喧伝するイノベーションの重要性、およびイノベーション促進における政治制度の重要性、ならびに植民地支配のマイナス効果には同意するが、5つの指摘事項がある、として以下を挙げている:

  1. 成長の源泉はイノベーションだけでは無い。技術の伝播も重要。アセモグル=ロビンソンもキャッチアップ成長を当然認識しているが、2次的な重要性しか付与していない。サックス自身はそれを極めて重要な要因と見做している。
  2. イノベーションを育む制度が技術伝播を促す制度と同じとは限らない。良い悪いは別にして、専制的な制度は、技術伝播に際して非常に効率的となり得る。
  3. イノベーションは物理的環境との相互作用を伴う。従って、世界のどの場所も条件は平等、というわけにはいかない。
  4. 専制的指導者が経済発展を阻害ではなく促進したいと強く動機付けられることは良くある。
  5. 政治制度は時間と共に大きく変化することがある*2


さらにサックスは、2001年のアセモグル=ロビンソンとサイモン・ジョンソンの論文に掲げられた以下のスキームを引用し、経済史の「AJR線形モデル」と名付けた上で、その問題点を詳細に批判している。

(potential) settler mortality —-> settlements —-> early institutions —-> current institutions —-> current economic performance

*1:cf. ここ

*2:cf. ここで紹介した(サックスとは因縁の間柄の)シュライファーの指摘。[12/16追記]サックス自身も当記事の中でそのシュライファーの指摘に言及している。