なぜエコノミストの予測はばらつくのか?

NY連銀ブログでエコノミスト予測の不一致についての分析記事が上がっている。元となった論文はこちら。論文の著者はPhilippe Andrade、Richard K. Crump、Stefano Eusepi、Emanuel Moench(Andradeのみフランス銀行、他はNY連銀)で、ブログ記事を書いたのはそのうちのCrumpとEusepi。


分析ではブルーチップ予測の高位10予測平均と低位10予測平均の差としてエコノミストの予測の不一致度を計測している。

これを見ると、政策金利FF金利)、インフレ率(CPI上昇率)、経済成長率という三大予測項目について、短期と中長期の不一致度が違うことが分かる。即ち、経済成長率については短期の不一致度は大きいものの、中長期に行くにつれその不一致度は低下する。一方、インフレ率の不一致度は期を通じて概ね平坦である。政策金利については、短期では概ね一致しているが、長期では2%ポイントもの差が生じている。


この不一致度の時系列推移を見ると、以下のようになる。

これによると政策金利とインフレ率の不一致度は1990年代末以降大きく低下しているが、これは物価の安定性とFOMCの透明性が増したためだろう、と記事には書かれている。ただし、政策金利については、金融危機や先般の景気後退期の後には不一致度が高まっている、とも注釈されている。


エコノミスト予測が一致しないのは経済環境に関する「不完全情報」のためだが、著者たちはそれに起因する以下の2つの困難を挙げている。

  1. 現在の経済状況に関する見通しが不確定であること
    • 例えばGDPデータは公表が遅く、しかも後で大きな改訂がある。そのため、エコノミストは各自の「ナウキャスト」に頼らざるを得ない。
    • 仮に皆が同じデータに頼ったとしても、その解釈はばらつく。
      • 例えば天候がGDPに与える影響に関する定量的な評価は予測者によって異なる。
      • 価格や費用の指数からインフレのトレンドを探ろうとしても、それらの指数はノイズが多い。
      • 政策金利はそうしたノイズが少ないが、将来の値はインフレ率や経済成長率へのFOMCの反応関数に依存するため、やはりエコノミストの意見は分かれる。

  2. 予測者は、観測された経済状況の変化について、一時的な要因と、ゆっくり動く恒久的な要因とを分離する必要がある
    • 後者は検知が非常に難しく、特に金融危機の最中やその後のように、経済が度重なるショックに襲われている時にはなおさらである。


著者たちの研究では、この2つの要因を織り込んだ簡単なモデルを導入した、との由。その結果、実際の不一致を説明する上で両要因はともに重要であるが、特に2番目の要因が重要である、という知見が得られたという。
下図の金色の線は、予測者が経済の一時的な変化と恒久的な変化を分離する必要の無いモデルに相当し、灰色の線は、上の2つの要因を共に取り込んだ結果である。明らかに前者は観測された予測の期間構造を再現できておらず、それは期間が長くなるほど顕著になる(特に政策金利)。


政策金利予測に関する不一致度が金融危機後に高まったのは、データの品質が利用可能性がここ数年で変化したとは考えにくいため、一時的な変化と恒久的な変化の分離が困難であることを反映したものだろう、と著者たちは述べている。モデルによると、中期の政策金利見通しの不一致に対する説明力は、中期のインフレ率と経済成長率見通しの不一致と、より長期の政策金利見通しの不一致とが概ね同程度であるとの由。