経済学者と実社会

という小論がリッチモンド連銀のEcon Focusに掲載されている(H/T Mostly Economics)。著者はTim Sablik*1
以下はその冒頭部。

How important is it for economists to gain real experience with the markets they study in theory? Many of the founders of the discipline held other jobs before becoming professors. Nineteenth century French economist Leon Walras, who developed general equilibrium theory, worked as a journalist, novelist, railroad clerk, and bank director before becoming a profes­sor at the age of 36. William Stanley Jevons, the 19th century British economist who helped develop the theory of mar­ginal utility, initially studied the physical sciences and spent five years as a metallurgical assayer in Australia.
(拙訳)
経済学者にとって、理論的な研究対象としている市場について実際の経験を積むことはどの程度重要だろうか? 経済学の発展に関わった人の多くは、教授になる前に別の職に就いていた。一般均衡理論を発展させた19世紀のフランス人経済学者レオン・ワルラスは、36歳で教授になる前に、ジャーナリスト、小説家、鉄道職員、および銀行の役員として働いた。限界効用の理論の発展に貢献した19世紀の英国人経済学者ウィリアム・スタンレー・ジェヴォンズは、最初は自然科学を勉強し、試金官として豪州で5年間を過ごした。


しかし現代では象牙の外での経験を積んだ経済学者はあまりいない。それが2007-2008年の金融危機を予言できなかったことにつながった、という人もいる。


だが、学界が孤立しているというイメージは今日では正しくない、とSablikは言う。というのは、特にマーケットデザインの分野で、産学共同の例が見られるからである。アルヴィン・ロスは、ノーベル賞受賞講演で、「マーケットデザインはチームスポーツであり、理論家と実務家の区分が曖昧になるため両者を区別するのが難しいチームスポーツである」と述べたという。

ただ、民間での仕事、ないし民間との共同の仕事は、論文執筆や研究者としての研究の遅れにつながる、というマイナス面もある。またジンガレスは、民間との共同の仕事には、規制の虜と同様の危険性が存在する、と警告している*2


とはいうものの、今日では民間のデータ抜きでは経済を捉えることがますます難しくなっている。ということで、研究者の大部分はジェヴォンズワルラスのように別の分野で働いた経験を持たないにしても、企業との共同の仕事を通じて実社会が経済学研究にますます入り込むようになっている、と指摘して記事は結ばれている。

*1:cf. ここ

*2:cf. ここ