サマーズ「慌てて利上げして経済を台無しにした日本の轍を踏むべきではない」

少し前にIMFFRBに利上げに慎重になることを呼び掛けたが、その裏付けとなる研究を紹介した記事がIMFブログに上がっている。同記事では、サマーズの「whites of inflation’s eyes are visible(インフレの白目が明確になる)」まで利上げを待つべき、という言葉が引用されており、調べてみると、出典は2/8付けFT論説であった。
同論説についてはこちらの日本語ブログ記事でも言及されているが、その中でサマーズは、インフレおよびインフレ予想が2%を超える危険性が明確になるまで利上げは待つべきである、と述べ、その理由として以下の4点を挙げている。

  1. 大部分の労働者の実質賃金が停滞していること
    • 通常水準以下の失業率が必ずインフレを加速させるといういわゆるフィリップス曲線の考えは非常に不確実性が高い。その予言に反して、数年前に失業率が10%圏内になってもインフレは大きく減速せず、1990年代に失業率が4%を割り込んでもインフレはあまり加速しなかった。
  2. インフレの少々の加速はむしろ良いこと
    • 2007年以降に2%インフレが維持されていた場合の水準より現在の物価は4%ほど低く、物価水準目標の考え方からすれば、キャッチアップのために2%超のインフレ率を支持する考え方もあり得る。また、実質金利を下げるという考え方からもそれは支持される。
  3. 表題の件
    • 下記参照。
  4. 金利と強いドルは債務国の負担を増やし、米国の貿易赤字を悪化させる
    • 貿易赤字の拡大は製造業を傷つけ、保護主義の圧力を高める、欧州、日本、および新興国の様々な問題を嫌気してドルに資金が流れ込み、ドル高によって米国景気が顕著に減速する危険はすでに存在する。インフレ上昇の証拠無しに利上げすれば実質金利を劇的に上昇させ、そうしたリスクをさらに悪化させる。

このうちの第三の理由についてサマーズは以下のように述べている。

Third, a plane that accelerates too rapidly as it takes off may cause passengers discomfort while a plane that accelerates too slowly may crash at the end of the runway. Historical experience is that inflation accelerates only slowly so the costs of an overshoot on inflation are small and reversible with standard tightening policies. In contrast, aborting recovery and risking a further slowing of inflation is potentially catastrophic — as Japan’s experience demonstrates. So in a world where economic forecasts are highly uncertain, prudence in avoiding the largest risks counsels in favour of Fed restraint in raising rates.
(拙訳)
第三に、離陸時の加速が急過ぎる飛行機は乗客に不快感を与えるが、加速が緩やか過ぎる飛行機は滑走路の終端で墜落してしまうかもしれない。歴史の示すところによればインフレの加速は常に緩やかであり、そのため、インフレの行き過ぎの代償は小さく、通常の引き締め政策で反転可能である。対照的に、回復を中断させ、さらなるインフレの減速のリスクを冒すことは、大惨事をもたらす可能性がある――それは日本の経験が示すところである。従って、経済予測の不確実性が非常に高い世界では、最大のリスクを回避するために慎重に行動するならば、FRBは利上げに抑制的になるべき、ということになる。