変数人間の経済学

「One Size does not Fit All: Multiple Dimensions of Ability, College Attendance and Wages」というNBER論文が上がっているungated版)。著者はMaría F. Prada米州開発銀行)、Sergio S. Urzúa(メリーランド大学)。
以下はその要旨。

We investigate the role of mechanical ability as another dimension that, jointly with cognitive and socio-emotional, affects schooling decisions and labor market outcomes. Using a Roy model with a factor structure and data from the NLSY79, we show that the labor market positively rewards mechanical ability. However, in contrast to the other dimensions, mechanical ability reduces the likelihood of attending four-year college. We find that, on average, for individuals with high levels of mechanical and low levels of cognitive and socio-emotional ability, not attending four-year college is the alternative associated with the highest hourly wage (ages 25-30).
(拙訳)
我々は機械的能力の役割を、認知能力面や社会的・情動的能力面と並んで進学の決定や労働市場での帰結に影響するもう一つの能力の側面として調査した。因子構造を持つロイモデル*1とNLSY79*2のデータを用い、我々は労働市場機械的能力に対しプラスに報いることを示した。しかし、他の側面と異なり、機械的能力は四年制大学に進学する確率を低める。平均的に言えば、機械的能力が高く認知能力と社会的・情動的能力が低い人間にとって四年制大学に進学しないことは、(25-30歳の)時給が最も高い選択肢と結びついている、ということを我々は見出した。

ungated版の要旨ではもう少し具体的な数字が挙げられており、認知能力と非認知能力*3が1標準偏差高いと四年生大学へ進学する確率がそれぞれ19.3%、2.6%高まるが、機械的能力については7.3%低まる、と報告している。また、労働市場は、認知能力、非認知能力、機械的能力に対しそれぞれ10.4%、3.9%、1.7%報いるとのことで、機械的能力もプラスではあるものの、前二者の方が高い。さらに格差と能力の関連についても触れられており、認知能力は全体的な格差に影響し、機械的能力は低学歴労働者間、非認知能力は大卒間の格差に影響するとの由。


またungated版によれば、機械的能力については1980年の夏と秋に実施されたArmed Service mechanical Aptitude Battery (ASVAB)*4の結果を用いたという。同テストはNLSYの対象者の90%以上に対し実施されたとの由。論文では、実際にその調査で使用されたものではないが、機械的能力を測る問題の例としてこちらのサイトに掲載されたものを紹介している。


(この機械的能力の話を読んで、その能力が特に優れた人間を題材にした以下のP.K.ディックのSF短編を想起したので、本エントリのタイトルに使ってみた。)

変数人間 (ハヤカワ文庫SF)

変数人間 (ハヤカワ文庫SF)

*1:このモデルに触れた日本語文献が無いかぐぐってみたところ、これこれが見つかった。

*2:このデータは以前ここで紹介した分析でも使われている。

*3:上記では社会的・情動的能力と表現されていたが、ungated版の要旨ではこの能力はnon-cognitive abilityと表現されている。この表現についてはここの注参照。

*4:cf. Wikipedia