ディッキー・フラー検定であまり知られていないこと

についてDave Gilesが書いている


ディッキー・フラーの回帰式は以下のように表される。
  ΔYt = [α + β t] + γYt-1 + [Σ δj ΔYt-j] + εt

ここで[・]の項はオプションであり、 うち、[Σ δj ΔYt-j]は式の残差に自己相関が無いことを保証する役割を担う「拡張項」である。
[α + β t]については以下の3パターンがあり得る。

  • ドリフト無し、トレンド無し
    • (α + β t)項が丸ごと省略される
  • ドリフト有り、トレンド無し
    • αが含まれるが、β tが省略される
  • ドリフト有り、トレンド有り
    • (α + β t)項が丸ごと含まれる

ディッキー・フラー検定では帰無仮説 H0:γ = 0 を HA:γ < 0 に対し検定することになるが、帰無分布は正規分布ではなく、たとえサンプルサイズを大きくしたとしても漸近的に正規分布に近付くことも無い。また上記の3バージョンそれぞれについて帰無分布は異なる。そのため、適切な閾値は、シミュレーションによって求めた専用の表を参照することになる。


以上は通常教えられることであるが、専門課程を除きあまり教えられていないのは、そうした非正規分布や「専用の」閾値を気に掛けねばならないのは、対象系列Ytのデータ生成過程(data-generating process=DGP)について非常に強い仮定が置かれているためである、とGilesは指摘する。その仮定とは、該当系列はドリフト項もトレンド項も無い以下のように表現されるデータ生成過程で生成される、というものである。
  Yt = Yt-1 + vt ;   vt 〜 N[0 , σ2]
もしこのデータ生成過程に定数項(ドリフト項)もしくは線形のトレンド項のいずれか、もしくは両方が含まれるならば、ディッキー・フラー検定統計量の帰無分布は漸近的に標準正規分布に近付き、専用の表は要らなくなる(ただしこれはサンプルサイズが非常に大きな場合にのみ当てはまる話であり、サンプルサイズが限られる場合にはやはり非正規分布となる)。これは良く知られた結果であり、ハミルトン(1994)にも証明が掲載されているが、なぜか計量経済学徒にはあまり知られていないようだ、とGilesは述べてエントリを締め括っている。