世界の経済的不平等について知っておくべき10のこと

をKathleen Geierというシカゴ在住のライターが自ブログで挙げている(H/T Economist's View)。

  1. 世界経済の不平等を計測するのは非常に困難
    • 各国が実施する国別の調査はあるが、世界規模の統一的な所得に関する家計調査は存在しない。
    • 国別調査は質や質問や手法が標準化されていない。さらに以下の問題がある:
      • 何が所得かという問題。例:
        • 自作農の所得をどう記録するか
        • 医療保険(ある国では無料の皆保険、ある国では被雇用者の民間給付パッケージ)を所得として扱うかどうか
      • 人々は得てして所得を正確に記憶していない。
        • 所得形態が定期的に支払われる賃金でなければ無理からぬこと
      • 富裕層も貧困層も正しい値が得られない傾向がある。
        • 多くの調査では開示所得に上限制約を掛けるため(topcoding*1)、富裕層の所得を過小評価する
      • 異なる国の家計調査をつき合わせる際の通貨換算の問題。
    • 経済的不平等の研究の重要なソースはルクセンブルク所得調査世銀の2つ。いずれの調査も国際データの調整手法を発達させてきた。ルクセンブルクデータは中高所得の比較的少数の国に対象が限られるが、データは詳細。世銀はもっと多くの国をカバーしているが、データはそれほど豊富ではない。
    • 完璧なデータは存在し得ないが、世界の不平等の件に関しては、データの質と調査手法はいつにも増して問題となる。この論文参照。
       
  2. 経済的不平等を計測する最も一般的な方法はジニ係数であり、同係数は値が大きいほど不平等が大きい
    • 0が完全な平等で、1が完全な不平等。実世界のジニ係数は、.20台前半から.70台前半の間(from the low 20s to the low 70s)に分布している。
       
  3. 中南米は世界で最も不平等な地域であり、北欧ならびに中欧各国は最も平等であり、米国は世界で最も不平等な先進国に属する
  4. 国際的な経済的不平等は、いかなる国内的不平等よりも顕著に大きい
    • 全世界のジニ係数はおよそ70で、どの国の値よりも大きい。
    • 最も富裕な5%の国が世界の所得の37%を得ている半面、最も貧しい5%の国が得ている所得は世界の所得の0.2%に過ぎない。
       
  5. 世界の不平等は産業革命から第二次世界大戦終了までの間に急速に上昇した後、その高い水準で平原状態に達し、今に至る
    • 現在においても世界の不平等を計測するのが困難であることに鑑みると、歴史的推移を追うことの難しさは容易に想像がつくが、そうした試みは存在する
       
  6. 百年前は、階級が世界の不平等の3分の2以上を説明し、国同士の経済格差による説明力は3分の1以下に留まったが、今日では、その割合は逆転している
     
  7. 過去数十年間、多くの国において国内の不平等度は増したが、世界の不平等度は基本的に変わっていない
    • 2年前にOECDは、OECDにおける所得の不平等度は過去半世紀で最高水準に達した、と報告した。最も裕福な人々10%の平均所得は、最も貧しい人々10%の平均所得のおよそ9倍に達し、25年前の7倍より上昇した。
    • 各国内の不平等度が増したにも関わらず、全世界の不平等度はほぼ一定を保っている。ミラノヴィッチによれば、中国とインドの経済成長が、そうした国内の不平等度の上昇を相殺した、との由。彼によれば、もしそれらの国の経済成長が続けば、世界の不平等度は下がるだろう、とのこと
       
  8. 最近、幾つかの国では世界的潮流に反して経済的不平等を減らすことに成功した
    • 意外にも中南米では、2002年以降に経済的不平等は顕著に低下している。過去10年間に、メキシコ、アルゼンチン、ブラジルでは、再分配政策と労働市場や経済全体への政府介入を精力的に推し進め、経済的不平等を低下させた。
    • メキシコのOportunidades*3、ブラジルのBolsa Familia*4といった貧困対策の成功や、ブラジルの教育の拡充が貧富の巨大な格差を埋め始めている。
       
  9. 世界の経済的不平等を気にすべき説得力のある理由は数多く存在する
  10. 世界の経済的不平等を顕著に減らすことは大いなる挑戦であるが、実現可能
    • 国内の不平等と国家間の不平等の二正面作戦になるが、闘う手段はある。

*1:cf. Wikipedia

*2:邦訳

不平等について―― 経済学と統計が語る26の話

不平等について―― 経済学と統計が語る26の話

*3:cf. Wikipedia

*4:cf. Wikipedia