スティグリッツ「中央銀行の独立なんかいらない」

昨日エントリの末尾で言及した、The Times of Indiaが伝えるスティグリッツのインド準備銀行主催会合での発言を紹介しておく*1。昨日のエントリのはてぶコメントでは10年前の日本での講演でも同様の趣旨の発言をしていたことをご教示いただいたが、その姿勢は同時期に書かれた道草で紹介されているProject Syndicate論説にも表れているほか、梶ピエール氏がこちらで紹介している著書でも一貫している。

危機以前には、米国の金融機関と(FRBを含む)米国の規制機関は他国が模倣すべき模範として良く持ち上げられていました。危機はそれらの機関への信頼を損なっただけでなく、大いなる制度的欠陥を浮き彫りにしました。明らかになったのは、西側の中央銀行家が主唱する原則の一つ――中央銀行の独立が望ましいということ――は良く言って疑問の余地がある、ということです。

危機においては、中国、インド、ブラジルのような独立性の低い中央銀行を持つ国の方が、欧州や米国のように独立性の高い中央銀行を持つ国に比べて、遥かにうまく乗り切ることができました。真に独立した機関など存在しません。すべての公的機関には説明責任があり、唯一の問題は誰に対しての説明責任か、という点なのです。

FRBやECBの低金利での銀行への融資は、事実上、数百億ドルに上る贈与でした。それは一般国民からの贈与でしたが、通常の公的な歳出プロセスを回避していました。予算に関するそれだけの裁量が、選挙で選ばれた訳でもない団体に与えられている、というのはとんでもないことです。

FRBは、本来は規制すべき対象である金融部門のイデオロギーと利害関係を反映するものとなってしまいました。NY連銀総裁が自らの指名に貢献した銀行の救済に中心的な役割を果たしたというような全面的な利害関係の衝突というのは、悪しきガバナンスの典型例です。FRBは、金融業界が利害関係の衝突で満ち溢れるようになるのを許し、貧しい人々から搾取するだけでなく、米国と世界の金融システムを危機に陥れるような慣行に目を瞑ってきました。


アレックス・タバロックは、このスティグリッツ発言は自分の3年半前のエントリの以下の文章と同趣旨、としている(そのエントリは、FRBの独立性を求めた経済学者の請願に対応したものだという)。

There is nothing magical about independence that makes for low-inflation.

…The primary reason that independent central banks are better at controlling inflation is that absent direct political control the default selection mechanism favors bankers, i.e. lenders, people whose interests make them more favorable towards lower inflation.

Thus, independence is a political decision that favors lenders in the decisions of monetary policy. Now, depending on the alternatives, there may be good reasons for making this choice but we should not fool ourselves into thinking that we have depoliticized money. We should not be surprised, for example, that “independent” central banks tend to make lender of last resort decisions that protect banks and bankers.
(拙訳)
低インフレをもたらす中央銀行の独立性に何か特別な魔法があるわけではない。
…独立した中央銀行がインフレ管理に優れているのは、直接的な政治的コントロールが存在しない場合、デフォルトの選択メカニズムが、銀行、即ち、利害関係からして低インフレを好む貸し手に有利に働くからだ。
つまり、独立性というのは、金融政策の決定において貸し手を有利にするような政治的決定なのである。他の代替手段との比較衡量を考えた場合、そうした選択をすることにも尤もな理由がある、ということになるかもしれないが、その際に金融を政治から切り離したなどと自分を誤魔化してはならない。例えば、「独立した」中央銀行家が、銀行や銀行家を保護するような最後の貸し手としての決定をしたとしても驚くべきではない。


こうした考え方は、ここで紹介したスティーブ・ワルドマンの考え方と共通していると言えるだろう。

*1:この講演についてはWSJ日本語版も報じている