マンキューのやわらかあたま塾

昨日のエントリで紹介したクルーグマンが批判したマンキューらの経済政策レポートに関し、マシュー・イグレシアスが、3年前のマンキューの主張との矛盾を衝き、以下のように皮肉っている(Mainly Macroコメント欄経由;デロングも取り上げている)。

They also open up a new front in an important conceptual debate about the sluggishness of the recovery:

The Obama administration says that the economy’s awful performance reflects the reality of the aftermath of a financial crisis and that the administration’s policies generated what little recovery we have seen from the severe 2007-2009 recession – Americans should stay the course. But the historical record is clear: Our economy usually recovers quickly from recessions, and the more severe the recession, the faster the subsequent catch-up growth.

An interesting piece of background here is that back in March 2009 it was the Obama administration saying we should expect rapid catch-up growth, and Mankiw arguing that this is an unfounded assumption. The Obama administration really has changed its tune on this "unit root" controversy, and it's interesting that Mankiw has also changed his mind. Normally the problem in intellectual life is that people hesitate to confess to error even when refuted by events. Changing your mind after having been apparently vindicated by events requires a staggering level of open-mindedness.


(拙訳)
彼らはまた、景気回復の遅さに関する重要な概念論争において新たな戦線を開いた。

オバマ政権は、経済の芳しくない状態は金融危機後の現実を反映したものであり、政権の経済政策は、2007-2009年の深刻な景気後退後に見られた小回復を取りあえずもたらしのだから、米国はその政策を維持すべき、と主張している。しかし、過去の歴史が示すことは明らかだ。我が国の経済の不況からの回復は通常は速やかであり、不況が深刻であるほど、その後の回復のための成長は急速なものとなる。

この話の興味深い背景は、2009年3月時点においては、回復のための急成長が期待できると言っていたのはオバマ政権であり、マンキューがそれは根拠の無い仮定である、と主張していたことだ*1オバマ政権はこの「単位根」論争について確かにその論調を変えたが、興味深いのは、マンキューもまた考えを変えたことだ。知的生活において良く見られる問題は、実際の出来事で誤りが証明されたにも関わらず、人々がそれを素直に認めないことだ。実際の出来事で明確に正しいことが証明された後で考えを変えるには、驚くべきほどの頭の柔軟性が要求される。


この後でイグレシアスは、経済回復の遅さについては以下の2つの見解がある、と論じている。

  • 金融危機後の景気回復は、通常の景気回復に比べて長く苦しいものとなる、というラインハート=ロゴフの見方
    • 大統領も今やその見方を取っている
  • 金融危機後の政策対応はうまくいかないことが多い――というのは、目標金利政策という単純なメカニズムが効かなくなるからだ
    • イグレシアス自身はこちらの見方を支持

前者の見解によれば、最善を尽くしても遅滞は避けられない。後者の見解によれば、そもそも適切な財政金融政策が存在しない、ということになる。


その上でイグレシアスは、レポートの著者たちは以下の第三の見解を提示した、と揶揄している。

  • オバマ政権の政策が、非常な偶然により米国の長期的潜在成長力を大きく損なうものであったため、適切な刺激策を取ったにも関わらず、短期の回復のための成長さえ実現できなかった。

イグレシアスは、こうした考え方の初出をルーカスに帰している(cf. ここ)。

そして、そうした見解への反駁材料として、リンドン・ジョンソンを持ち出している。オバマ政権の社会保障拡大政策がジョンソン政権のそれを上回っていると真剣に考えるとは、単位根論争に関するマンキューの心変わり以上のお笑い種だ、というわけだ。

*1:cf. ここ。ちなみにそこで話題になった単位根については、今回のレポートの著者の一人であるテイラーもかつて「単位根の理論は、経済の変動というものは一時的に需要側にショックを及ぼすのではなく、現実にはその経済の長期的な趨勢に影響を及ぼすものである、ということを人々に再確認させる上でも大きなインパクトがある」と指摘している