動学的効率性とリスクフリーレート・パズル

Nick Rowe少し前のWCIブログエントリのコメント欄で、そのエントリのテーマとなった動学的非効率な状態(成長率が金利を上回っている状態)は、消費のボラティリティに非現実的な仮定を置くことに相当する、という指摘があった。

少しぐぐって調べてみたところ、そのコメンター(Colin)の指摘はいわゆるリスクフリーレート・パズルに相当することが分かった。リスクフリーレート・パズルについては、例えばCampbellの解説がネットで読めるが*1ローマーを基に簡単に解説すると以下のようになる。


消費をCt、時間選好率をρ、利率をr、効用関数をu(・)とすれば、今日の消費1単位を我慢して得た明日の消費(1+r)単位の効用の均衡条件から
  u'(Ct) = (1+r) × u'(Ct+1) ÷ (1+ρ)
が成立する(期待値の記号は省略)。今、u(C)=C1-θ/(1-θ)というリスク回避度一定の形の効用関数を仮定すれば、これは
  1+ρ = (1+r) × (Ct+1/Ct)
となる。いま、Ct+1/Ct≡1+g と置き、
  (1+g) = 1 - θg + θ(1+θ)g2/2
という2次の項までのテイラー展開を代入すれば、上式は
  1+ρ = 1+r -θg + θ(1+θ)Var(g)/2
と近似できる(rとgの積、およびg2の期待値はゼロで近似)。簡単のため、θ=1という対数効用関数を考えると、これは結局
  r = ρ + g - Var(g)
となる。


Colinは、ρ=0.05を仮定した場合、この式でg>rとなるためにはVar(g)は0.22、即ち20%以上という現実の値の10倍程度の値を取る必要がある、という指摘を行っている*2


それに対しRoweは、彼がそのエントリで考えたようなOLGモデルでは、そうした単純な関係は成立しないのではないか、と応じている。


実際、前述のCampbellは、OLGモデルからこうしたリスクプレミアム・パズル/リスクフリーレート・パズルの解明を試みたConstantinides=Donaldson=Mehra論文に言及している。


また、上述の展開から分かる通り、効用関数の一次微分の比が(1+g)となるような効用関数を仮定していることが、この結果を導く上で重要な役割を果たしている。そのため、同じくCampbellによると、別の効用関数を用いてこうしたパズルを解く試みもなされているとの由。

*1:2008年のPrinceton Lectures in Finance資料。基本的にはこの本邦訳)の8章がベースになっているようである。

*2:一方、前述のCampbellは、取りあえずVar(g)を無視した場合、この式において現実的な値を満たすためには、ρがマイナスになる必要がある、と指摘している。