一昨日と昨日紹介したアスムッセン講演から、中央銀行のコミュニケーションが如何に変わったか、ないし変わらざるを得なかったか、について述べた部分を引用してみる。
It was not always obvious that central banks and communication should be mentioned in the same sentence. Central banks used to be secretive places. They used to surprise the markets with their policy moves. They used a language that made the oracle of Delphi appear positively accessible: Alan Greenspan is on record as saying: “If I seem unduly clear to you, you must have misunderstood what I said [3] .”
Those days are over. Central bank communication has become a very dynamic discipline. By deliberately steering expectations in financial markets with their communication, central banks let the markets do part of the job of transmitting their policy signals.
The crisis was a game-changer in the communication of central banks, and of economic policy makers more generally. In this world of unknown unknowns, and rapid shifts market sentiment, our task has become much more complex. The new challenges can be captured by the following three themes, or fault lines:
■First: market communication versus political communication;
■Second: transmitting the message versus facing the discourse
■Third: arguing with counterfactuals and navigating the short versus the long term
I will address each of those in turn.
(拙訳)
中央銀行とコミュニケーションとの密接な関連性は常に自明だったわけではありません。かつての中央銀行は秘密主義でした。彼らはその政策行動によって市場を驚かせたものでした。彼らの使用する言葉は、デルファイの神託を非常にとっつきやすいと思わせるようなものでした。アラン・グリーンスパンは、「もし私の言うことがあまりにも分かりやすいと思うならば、あなたは私の言うことを誤解しているに違いない(原注:ウォールストリートジャーナル1987年9月22日)」と言ったものです。
そうした時代は終わりを告げました。中央銀行のコミュニケーションというものは非常に活発な活動分野となりました。コミュニケーションを用いて金融市場の予想を慎重に舵取りすることにより、中央銀行は、自らの政策シグナルを伝達するという仕事を部分的に市場に任せます。
今回の危機によって、中央銀行のコミュニケーション、ないし、経済政策当局者のコミュニケーション全般は、大きく変貌しました。未知の不確実性が存在し、市場のセンチメントが急速に変化するこの世界では、我々の仕事は以前に比べてかなり複雑性を増しました。我々の直面する新たな課題は、次の3つのテーマ、ないしフォールト・ラインズに集約されます。
- 市場とのコミュニケーション 対 政治的コミュニケーション
- メッセージの伝達 対 世論と向き合うこと
- 反実仮想についての議論、及び、短期の舵取り 対 長期の舵取り
これからそれぞれのテーマについて順にお話したいと思います。
この第二点のうち、「世論と向き合うこと」が、一昨日と昨日紹介した箇所になるが、それと対比させて、古き良き時代の「メッセージの伝達」についてアスムッセンは以下のように述べている。
In the past, central bank communication was mainly a one-way street. The central bank transmits its messages. As independent institutions, they were – and continue to be – prohibited from yielding to outside influence. And rightfully so. The first President of the ECB, Wim Duisenberg, summed it up very neatly: “I hear, but I do not listen [5] .” The academic debate about central bank communication focused on transparency: Whether central banks were too closed and provided too little information.
The globalisation of information, the rise of the internet and the new “prominence” of central bank action create a new context: whatever the central bank does is subject to a worldwide market assessment and media commentary.
(拙訳)
かつては、中央銀行のコミュニケーションは概ね一方通行でした。中央銀行はメッセージを伝達する側でした。独立機関として、彼らは――今もそうですが――外部からの影響に屈することを禁じられていました。それは正当なことでした。欧州中央銀行初代総裁のウィム・ドイゼンベルクは、このことを極めて簡潔にこう表現しました:「耳は傾けるが、聞き入れはしない(原注:2001年11月4日のECB記者会見)」。学界での中央銀行のコミュニケーションに関する議論は、専ら透明性に焦点を当てていました。中央銀行があまりにも閉鎖的でないか、出す情報が少な過ぎはしないか、と言う点です。
情報のグローバリゼーション、インターネットの台頭、中央銀行の政策行動が「目立つ」ようになったことが、環境を変えました。中央銀行の一挙手一投足は、世界中の市場、およびメディアのコメンタリー陣の評価の対象となったのです。