あぶく銭は身につかない

一昨日のエントリの脚注ではタイラー・コーエンがマシュー・イグレシアスのコメントを評価したことを紹介したが、そこでイグレシアスはScott HankinsとMark Hoekstraの論文を参照している。その論文では所得の外生的な増加により独身女性が結婚する傾向が低下することが示されているが、その論文のユニークな点は、所得の外生ショックとして宝くじを使った点である。


コーエンは別のエントリで、同じ著者(+Paige Marta Skiba)がやはり宝くじに当たった人を対象に分析した別の論文も紹介している(正確にはアレックス・タバロックが同論文を紹介した以前のエントリを引用している)。
その論文の要旨は以下の通り。

This paper examines whether giving large cash transfers to financially distressed people causes them to avoid bankruptcy. A comparison of Florida Lottery winners who randomly received $50,000 to $150,000 to small winners indicates that such transfers only postpone bankruptcy rather than prevent it, a result inconsistent with the negative shock model of bankruptcy. Furthermore, the large winners who subsequently filed for bankruptcy had similar net assets and unsecured debt as small winners. Thus, our findings suggest that skepticism regarding the long-term impact of cash transfers may be warranted.
(拙訳)
本論文では、財政的に困窮した人々に多額の現金を与えることが破産を防ぐことになるかどうかを調べた。フロリダの宝くじにおいて5万ドルから15万ドルを無作為に獲得した当選者を小額の当選者と比較することにより、そうした贈与によって破産は防がれず、単に先送りされるだけであることが示された。この結果は、破産のネガティブ・ショック・モデルとは整合的でない。また、最終的に破産した高額当選者の純資産と無担保債務は、小額当選者のそれと同様であった。従って、我々の研究結果により、現金贈与の長期的な効果を疑問視する見方が裏付けられたと言えそうだ。


コーエンはこの論文を、所得の低下と個人の無責任さを結び付けたチャールズ・マレーの見方を支持するもの、として受け止めているようである。ただ、本エントリのタイトルに掲げたように宝くじのような所得がすぐに費消されてしまう傾向は昔から古今東西を問わず知られていた話であり、それがマレーの言う近年の白人社会における道徳観の低下とどうつながるのかは今ひとつ不透明なようにも思われる。