これが本当ならば我々はおしまいだ

と題したMRエントリ(原題は「If true we are doomed」)でタイラー・コーエンが、「Global Banking Glut and Loan Risk Premium」というHyun Song Shin論文を紹介している。元のポインタはクルーグマンで、コーエン以外にはデロングが同論文にリンクしたほか、ケビン・ドラムがその内容を簡単に要約している。


各人が注目したのは、欧州の銀行が米国に多額(2007年のピーク時で約5兆ドル)の貸付を行っている、というShinの分析。それが本当だとすると、欧州の銀行がデレバレッジで貸出の縮小に走れば、米国も甚大な影響を受けることになる、というわけだ。


Shinはその貸出のスキームを以下の模式図で表わしている。

ここで話をややこしくしているのが、欧州の銀行の米国法人が調達した資金が、いったん本国の本店に渡り、その後にシャドウバンキングを通じて米国の貸出市場に投じられている点。そのため、それら逆方向の資金の流れが相殺されたネットの資本収支を見てしまうと、この構図が見えてこない。Shinはネッティングされる前の各種の資本収支を比較分析することにより、上の構図を炙り出している。


こうした欧州の銀行の米国市場での貸出拡大を、Shinは「Saving Glut」ならぬ「Banking Glut」によるものだ、としている。バーゼルIIとユーロによって欧州の銀行のバランスシートが拡大し、貸出余力が高まった結果、米国の民間の貸出市場に参入した、というストーリーである。
もし(バランスシートの拡大を伴わない)単なるSaving Glutというストーリーならば、銀行においては、より高い利回りを求めて国債から民間の債券への資産の振り替えが起きるだけのはずである。しかし実際には、欧州の銀行は、米国で新たに資金を調達してそれを貸し出しに回すということを行った。それはバランスシートの拡大に伴う貸出能力の過剰が原因だったことを示している、とShinは主張する。


なお、クルーグマンはこの論文を紹介したエントリのタイトルを「The Mark-To-Market Amplification Of Financial Distress」としているが、それは同論文の結論部の以下の段落から取ったものと思われる。

The European crisis carries the hallmarks of a classic “twin crisis” that combines a banking crisis with an asset market decline that amplifies banking distress. In the emerging market twin crises of the 1990s, the banking crisis was intertwined with a currency crisis. In the European crisis of 2011, the twin crisis combines a banking crisis with a sovereign debt crisis, where the mark-to-market amplification of financial distress interacts to worsen the banking crisis.
(拙訳)
欧州危機は古典的な「双子の危機」の特色を備えている。それは、銀行危機が資産価格の下落につながり、それがさらに銀行の問題を悪化させる、というものだ。1990年代の新興市場での双子の危機では、銀行危機は通貨危機と結び付いた。2011年の欧州危機では、双子の危機は銀行危機と公的債務危機が結び付く形で現れ、時価評価が金融の問題を拡大するという形で銀行危機を悪化させている。


この段落に続いてShinは以下のような陰鬱な予言を行っている。

The global flow of funds perspective suggests that the European crisis of 2011 and the associated deleveraging of the European global banks will have far reaching implications not only for the eurozone, but also for credit supply conditions in the United States and capital flows to the emerging economies.
(拙訳)
世界的な資金の流れの俯瞰から得られる示唆は、2011年の欧州危機、ならびにそれに伴う欧州のグローバル銀行のデレバレッジは、ユーロ圏だけでなく、米国の資金供給環境や新興国経済への資金の流れに至るまでの広範囲の影響をもたらす、ということである。