欧州の銀行はどれだけの追加自己資本を必要としているか?

昨日のエントリでは欧州の銀行のデレバレッジが世界に与える影響を懸念した論文を紹介したが、こちらのvoxeu記事では、そうしたデレバレッジが10/26のEU首脳会議のせいで進行している、と書かれている(Mostly Economics経由)。

At the recent October Summit, European leaders agreed on a recapitalisation package for European banks. Unfortunately, they specified required capital as a ratio (capital divided by risk-weighted assets) instead of a euro amount. As a result banks are now deleveraging instead of seeking fresh capital. A credit crunch is currently on its way. Moreover, the required recapitalisation falls short at what is needed to restore confidence.
(拙訳)
直近の10月の首脳会議で、欧州の指導者たちは銀行の資本強化策で合意に達した。残念ながら、彼らは必要な資本をユーロではなく(資本÷リスク加重資産という)比率の形で示した。その結果、銀行は今や追加の資本を調達するのではなくデレバレッジに走っている。貸し渋りが現在生じているのだ。しかも、必要とされている自己資本は、信頼を取り戻すには不足している。

これを読んだMostly Economicsは、「Hmm. European policymaking at its best.. Anything they do there are some deep flaws..」と皮肉っている。


では、信頼を取り戻すにはどのくらいの自己資本が必要なのか? voxeu記事では、2種類の試算を示している。

  • 簿価ベースの自己資本比率普通株÷総資産)が4%もしくは6%
    • 4%ならば1890億ユーロ、6%ならば6050億ユーロが必要
      • 84銀行を対象に試算
  • 時価ベースの自己資本比率普通株÷総資産)が4%もしくは6%
    • 4%ならば4430億ユーロ、6%ならば8650億ユーロが必要
      • 上記の84行のうち上場49行を対象に試算

バーゼルIIIではレバレッジ規制比率として3%(1:33)という数字を示しているが*1、その3%という数字を上の簿価ベースの自己資本比率に当てはめると、16行で270億ユーロが必要、という数字しか出てこない。それではいかにも信頼を取り戻すには足りないので、その3%を33%増した4%という数字と、HSBCJPモルガンラボバンクといった優良行が達成している6%という数字で試算してみた、とのことである。


また、この試算では、以下の債務削減を前提にしたという:

実際にこれまで銀行が計上したのはギリシャ債の2020年以前に償還される分に過ぎず、しかもそのうちの21%しか償却していないという。そのため、2011年の第2四半期に償却されたのは、それまでの損益計算書で既に計上された分を除けば、80億ユーロに過ぎなかった。


なお、voxeu記事では、総資産ではなくリスク加重資産を使うことの問題点を示す例として、先ほど破綻したデクシアを上げている。同行の2011年7月時点の報告ではTier1の中核的自己資本は10.4%であり、これはその月に実施されたストレステストの最低基準5%の倍に達していた。しかし、上記の試算に用いた数字を当てはめると、簿価ベースの比率は1.34%であり、時価ベースでは0.49%に過ぎない、との由。


voxeu記事は、こうした自己資本強化を短期間で達成すべき、と強調している。具体的には、クリスマスまで、という期限を挙げている。それに比べると、2012年6月末というユーロ当局が示した期限はいかにも遅過ぎる、と記事は指摘している。しかも9%という比率で目標を示しているので、銀行がデレバレッジを行う時間をたっぷり与えていることになる上、その9%という比率が示す1060億ユーロという額は少な過ぎる、というのが記事の主張である。

*1:cf. たとえばこのWSJ記事