フラット・タックスこそ公平?

公平な税制を見つけるのは原則論においても難しい、とリチャード・グリーンが書いているEconomist's View経由;原題は「Even in principle, figuring out a fair tax system is hard」)。


彼はそこで、公平な税制を以下のように定式化している。

  U(X(L)-L-t)/U(X(L)-L) = K

ここでLは労働、Xは消費(=Lの関数)、tは税金、Uは限界逓減的な効用関数である。この式の意味は、税金を取られた後の効用と取られる前の効用との比が、各人について一定値Kになるのが公平な税制、ということである。Kは人々が公共財にどれだけ支出したいかによって決まる。


しかしグリーンは、この式を提示した直後にこれを放棄して、ロバート・ホールのフラット・タックス*1とEITCの組み合わせが良い、という保守派的な結論に――自分は本来リベラル派的なのだが、と断りつつも――辿りついている。その理由は以下の3点。

  1. 公平な累進税率は効用関数の2次微分の関数となるだろうが、Uとして対数関数を考えた場合、一次微分はU' = 1/(X-L)であり、二次微分はU" = -1/(X-L)^2である。つまり二次微分は(X-Lの増加とともに)急速に減少するので、公平を維持するための限界税率も小さいことになる。生存水準以下の人々からお金を徴収することが効用の著しい低下につながることは明らかだが、それより上の層に対しどの程度累進的な税を課せば良いかは不明。
     
  2. 消費と労働の対応は一対一の関係では無い。もし両者の相関が1以下ならば――敢えてそうだと断言するが――所得への課税は効用への課税の近似に過ぎなくなる。相関が低いほど、近似も悪くなる。
     
  3. 労働の定義は難しい。マシュー・イグレシアスの言うように、ニューヨーク大の教授はウォール街の銀行家より稼ぎは少ないが、生活はより良いのかもしれない。また、製鉄所の工員、炭鉱夫、生産ラインの労働者のLは自分より高いかもしれず、そう考えると所得だけで効用を近似した方が良いのかもしれない。


このうち2番目、3番目はともかく、1番目の論点は如何にも奇妙に思われる。というのは、上式においてUを対数関数とするならば、以下のように簡単にtの近似解が求まるからである。


 左辺分子 = log(X(L)-L-t) = log(1-t/(X(L)-L)) + log(X(L)-L) ≒ -t/(X(L)-L) + log(X(L)-L)
 よって、t = (1-K)(X(L)-L)log(X(L)-L)
 税率で考えるならば、t/(X(L)-L) = (1-K)log(X(L)-L)


即ち、税率をX(L)-L(あるいはお望みならば所得でも)の対数に比例する形で累進的に設定すれば良い。


一方、U = (X(L)-L)^a (0