経済モデルとは何か

昨日はvoxeuのリスクモデルに関する考察記事を紹介したが、IMFの季刊誌「Finance & Development」の最新号にはマクロ経済モデルに関する記事が掲載されている(原題は「What Are Economic Models?」;Mostly Economics経由)。
そこでは、「経済モデルは現実を単純化した描写(An economic model is a simplified description of reality)である」と定義した上で、経済的行動の定性的な予測を導出する理論モデルと、理論モデルを検証し予測に実際の数字表現を与える実証モデルの2つがある、と紹介している。そして実証モデルについて、さらに以下の2つの手法がある、と説明している。

There are, however, fundamental differences among economists regarding how an empirical model’s equations should be derived. Some economists insist that the equations must assume maximizing behavior (for example, an agent chooses its future consumption to maximize its level of satisfaction subject to its budget), efficient markets, and forward-looking behavior. Agents’ expectations and how they react to policy changes play a vital role in the resulting equations. Consequently, users of the model should be able to track the effect of specific policy changes without having to worry about whether the change itself alters agents’ behavior.

Other economists favor a more nuanced approach. Their preferred equations reflect, in part, what their own experience has taught them about observed data. Economists that build models this way are, in essence, questioning the realism of the behavioral constructs in the more formally derived models. Incorporating experience, however, often means it’s impossible to untangle the effect of specific shocks or predict the impact of a policy change because the underlying equations do not explicitly account for changes in agent behavior. The gain, these same economists would argue, is that they do a better job of prediction (especially for the near term).
(拙訳)
しかしながら、実証モデルの方程式の導出方法については経済学者の間で根本的な相違がある。ある経済学者は、方程式は、最大化行動(例えばある経済主体が予算制約下で満足度の水準を最大化するように将来の消費を選択する)や効率的市場やフォワードルッキングな行動を前提にすべきだと主張する。経済主体の予想や政策変化への反応が、結果として得られる方程式において中心的な役割を果たす。従って、モデルのユーザーは、政策変化そのものが主体の行動を変えるかどうかを気にすることなく、特定の政策変化の効果を追跡することができる。
別の経済学者は、より精妙なアプローチを好む。彼らのお好みの方程式では、観測データに関して自ら体得したことが部分的に盛り込まれる。このようにモデルを構築する経済学者は、基本的に、より正式な形で導出されたモデルに盛り込まれる行動パターンが現実的かどうかを懐疑的に見ている。しかし、経験を盛り込むことは、特定のショックの効果を分解して分析することや、政策変化の効果を予測することが不可能であることを意味する場合が多い。というのは、モデルの方程式が経済主体の行動の変化を明確に捕捉していないからである。ただしそれらの経済学者は、その代わり予測(特に短期予測)については自分たちの方が優れている、と主張するだろう。


こうしたマクロ経済モデルに関する考察について、昨日のリスクモデルに関する考察との異同について考えてみるのも興味深いかもしれない。昨日紹介したリスクモデルに関する考察では、危機は稀な現象なので、危機に焦点を当てるならばあまりデータに頼らない形でモデルを構築するのが良し、とされていた。それを上記のマクロモデルの考察に当てはめると、観測データに関する経験則を盛り込む後者のやり方よりは、データにそれほど頼らない前者のやり方の方が良い、ということになる。しかし上記の引用部でも言及されている通り、前者のやり方には前提の現実性に疑問符が付くという問題がある。それを改善するには、「Finance & Development」誌の同じ号で人物紹介が掲載されているジョージ・アカロフが言うように、他の学問分野で得られた人間の行動に関する知見をもっと前提に盛り込んでいくべき、ということになるのだろう。ただ、そうしたモデルの進歩には時間を要するので、それまでは、昨日の考察にあったように、危機に関しては精緻なモデルをかなぐり捨てて、株式のベータ値が皆1になるといった経験則や、自己資本などの単純な指標を活用するというのが(少なくとも実務面では)現実的なやり方なのかもしれない。