ジョー・スティグリッツ対ジョー・ギャニオン

ルーズベルト研究所(Roosevelt Institute)がFRBの将来に関するシンポジウムを開催し、そこで表題の2人が軽くやりあったらしい。同研究所のフェローを務めるマイク・コンツァル(ギャニオンが発言したパネルの司会も務めている)が、その様子を編集して自ブログのRortybombに上げているEconomist's View経由)。


最初にスティグリッツが、FRBのQE2政策を概ね以下のように批判した。

  • FRBの考えは古いモデルに基づいている。金利を下げれば投資が促進される、というものだ。しかし大企業については手元に現金が潤沢にあるので、金利の数ポイントの引き下げが彼らの投資に与える影響は限られている。一方、中小企業に対しては銀行の貸し渋りが起きている。この貸し渋りを解消しなければ、中小企業に資金が回っていかない。だが、FRBはこの問題にきちんと対処しないままQE2に踏み切った。
  • 銀行の貸し渋り問題が解消していない中で実施したQE2は、本来の狙いであるはずの中小企業に資金を回すことにつながらず、成長を続けている新興国への資金の流入を引き起こした。つまり、QE2によって供給された流動性は、経済の沈滞している箇所に流れ込むか、特にこれ以上の資金を必要としていない成長経済に流れ込むかの選択を迫られ、後者を選んだのだ。その結果、それらの国は、已む無く資本規制を実施するまでに至った*1。つまりQE2は、本来の目的を達成しないどころか、世界金融市場の分断化を引き起こしたのである。


それに対し、QE1の実行に関わりQE2の推進を強く訴えたギャニオンは、

  • FRBは、量的緩和が銀行システムというチャネルを通じて効くなどという幻想は持っていなかった。FRBが出した報告書においても、銀行システムをチャネルとして考慮してはいない。金融政策には様々な伝達経路があるが、FRBには、金融緩和の資金を市場経済がどのチャネルを通じて流すかについて決定する力は無い。
  • 量的緩和の効果は、コストゼロの貨幣の発行を元手として対象と定めた資産を購入し、その価格を押し上げて消費行動を促す資産効果にある。その効果の大きさについては意見が分かれるかもしれないが、効果が存在すること自体については異論の余地は無い。もちろん、そうした政策が行き過ぎれば経済の不均衡を招くが、目下の米国はそれを懸念すべき状況に無い。

と反論している。彼はまた、ドルの減価によって輸出の伸びが期待されたが、それは実現しなかった、とも述べている。さらに彼は、彼自身は2009年12月に2兆ドルの量的緩和を訴えたが*2、実際にFRBが実施したのはその11ヶ月後で、額も提言の1/4強の6000億ドルに過ぎなかった、その理由はQE2に対する支援が皆無に近かったことによりFRBが臆病になってしまったためだが、その臆病さは何百万の失業者という形で跳ね返ってきた、とむしろQE2の不十分さを批判している。そして、現在の水準の量的緩和を少なくとも今年末まで延長すべき、と主張すると同時に、金融政策の効果がラグをもって発揮されることを考えると、経済を支えるための量的緩和の発動機会というのは限られている、と警告している。


このギャニオンのスピーチに対し、スティグリッツが、合理的期待形成の考えから言えば、資産効果量的緩和を実施している期間に限られ、量的緩和が終了すれば元の木阿弥に戻ってしまうのではないか、という質問を行った。それに対しギャニオンは、購入資産をFRB量的緩和終了後に直ちに市場に売り戻すならばそうだが、永遠と言わないまでも相当の長期間(ex. 満期まで)保持するのであればそうはならない、と回答している。

*1:cf. ここ

*2:cf. ここ