幸せな場所では自殺が多い〜日本の場合?

本ブログの25日エントリには思わぬほど多くのはてぶを頂いたが、その後、そこで取り上げた研究はライブドアニュースでも紹介され、その記事を元に2chでもスレが立てられた。この問題に対する関心の高さが伺える。

また、ayakkaさんからは、日本ではどうなのだろうかというツイートを頂いた。小生もそれは知りたいところであるが、個票データが無ければ分析はできないだろうと考えて、日本で同等の研究が出るのを待つしかないだろうと思っていた。ただ、良く考えて見ると、都道府県別のランキングデータがあれば簡単な予備的分析はできそうなので、以下にそれを試みてみる。


まず、都道府県別の自殺率のデータであるが、ぐぐってみると厚生労働省のページが見つかったので、その10万人当たり男女総数のデータを利用することにした。
次に、幸福度のデータであるが、トップ10&ワースト10に関する記事は見つかったものの、完全なランキングの形ではなかなか見つからなかった。例えばこちらの論文の図1では、大阪大学都道府県別幸福度の調査結果が所得との散布図の形で記載されていたものの、あくまでもグラフなので、直接的なランキング結果は読み取りにくい。一方、同じ著者のこちらの論文の表3では、その幸福度データを県別ダミーに回帰した結果が全都道府県について記載されている。そこでここでは、その回帰係数(=最低ランクの徳島県からの乖離度)のランキングを用いることにした。
さらに、はてぶでは他殺率と自殺率の逆相関を指摘する声もあったので、他殺率についても併せて調べてみることにした。そのランキングデータはこちらで見つかったので、それを利用することにした。
以上3つの指標のランキングをまとめたのが下表である。

都道府県 自殺率順位 幸福度順位 他殺率順位
北海道 16 28 27
青森 2 43 25
岩手 3 38 24
宮城 21 27 31
秋田 1 35 38
山形 8 36 42
福島 13 37 35
茨城 29 30 13
栃木 21 34 5
群馬 12 24 10
埼玉 39 17 15
千葉 40 11 36
東京 38 7 40
神奈川 44 8 18
新潟 4 26 39
富山 5 18 46
石川 25 44 47
福井 9 32 45
山梨 27 40 37
長野 20 33 44
岐阜 21 12 34
静岡 43 21 23
愛知 40 29 17
三重 31 13 11
滋賀 33 4 19
京都 36 19 21
大阪 29 14 1
兵庫 35 1 7
奈良 45 15 33
和歌山 25 10 9
鳥取 34 46 43
島根 7 41 32
岡山 46 3 30
広島 37 23 14
山口 14 9 8
徳島 47 47 12
香川 40 39 3
愛媛 19 42 16
高知 11 45 20
福岡 17 6 4
佐賀 31 5 29
長崎 10 20 41
熊本 17 2 26
大分 27 31 6
宮崎 6 22 28
鹿児島 15 25 22
沖縄 24 16 2


まず、自殺率と幸福度の散布図を描くと以下のようになる(横軸=幸福度、縦軸=自殺率)。

散布図を見ただけでは分かりにくいが、回帰直線を引くとその係数はマイナスとなり、幸福度の高い都道府県で自殺率が低いという傾向が観察される。そのt値は-2.25であり、5%水準で有意である。これは25日エントリで紹介した論文とは逆の傾向である。


では、他殺率と自殺率の関係はどうだろうか? 自殺率順位を被説明変数、他殺率順位を説明変数に取って回帰してみると、回帰係数は-0.285、t値は-2.01となり、確かに逆相関の傾向が観察される。ただし、t値の絶対値は2を超えているものの、p値で見ると5%水準ではぎりぎり有意でない。


また、他殺率順位を被説明変数、幸福度順位を説明変数に取って回帰してみると、回帰係数は0.215となり、順相関の関係が見い出される。しかしそのt値は1.48に留まり、10%水準でも有意ではない。


最後に、自殺率順位を被説明変数、幸福度順位と他殺率順位を説明変数に取って重回帰してみると、以下のような結果が得られる。

説明変数 回帰係数 t値 p値
幸福度順位 -0.266 -1.88 0.066
他殺率順位 -0.228 -1.61 0.114

幸福度順位は5%水準では有意ではなくなるが、やはり自殺率順位と逆相関の傾向が見られる。一方、他殺率順位でも自殺率順位との逆相関の傾向が見られるが、それは10%水準でも有意ではない。


もちろん、個票データを使ってもっと精密な分析を行えば結果が変わってくる可能性は高いと思われるが、少なくとも上記のような簡単な予備的分析では、日本では幸福度が高いほど自殺率は低いという常識的な結果が導き出されることが分かる。