ラッファー曲線の屈曲点はどこ?

Wapoのエズラ・クラインのブログでDylan Matthewsがそう題したエントリを上げているマンキューブログデロングブログ経由;原題は「Where does the Laffer curve bend?」)。

Matthewsは表題の質問を各識者にぶつけ、得られた回答を同エントリにまとめている。以下に拙訳で紹介してみる。

税制の専門家

エマニュエル・サエズ(Emmanuel Saez)、カリフォルニア大学バークレー

税収を最大化する税率tはt=1/(1+a*e)で表される。ここでaは所得分布のパレート・パラメータであり(米国の場合は1.5。計測は容易である)、eは公表所得の1-tに対する弾力性で、サプライサイド効果を示す。eに関する最も適切な推計値は0.12から0.40の間にあるので(後述の論文の結論部参照)、e=0.25は妥当な推計値のように思われる。するとt=1/(1+1.5*0.25)=73%となり、これから(メディケア給与税や州所得税率や売上税による追加的な税率を考慮した)連邦所得税最高税率は69%となる。これは現在の35%や、現在議論されている39.6%よりかなり高い。

ジョエル・スレムロッド(Joel Slemrod)ミシガン大学

思い切って60%以上。・・・この問題を研究した学者の間では、我々がラッファー曲線の間違った側にいる、という考えはまったく支持されていない。我々がラッファー曲線の向こう側ないしそこに落ちそうなところにいる、ということを示す実証結果は存在しない。・・・反応の弾力性は、この場合の鍵となるパラメータだが、単に所与のものとして扱えばよい何らかの絶対的なパラメータではない。それは政策によって左右される。具体例を挙げよう。高所得者や企業が事務所や資産をオフショアに移して税金を逃れようとする動きを取り締まるために、内国歳入庁が組織を再編する、という記事があった。そうした動きは、抜け穴を封じることによって反応の弾力性に影響を与える政策手段と言える。税率を引き上げたいならば、こうした政策手段の併用も考えるべきだ。・・・もし単に財政赤字の変化だけに焦点を当て、財政支出の方は気にしないのであれば、この反応の弾力性も問題ではなくなる。財政支出を変えないならば、現在の税収のいかなる変化も、将来の税収の変化で相殺されねばならない。もしそうならば、現在の反応係数の高さはそのまま将来の反応係数の高さにつながることになる。


2人のこの件に関する最近の共著論文はこちら


左派

ブラッド・デロング(Brad DeLong)、カリフォルニア大学バークレー

70%。

ディーン・ベーカー(Dean Baker)、CEPR

70%近辺か、それより少し高め。税率は多段階あるので、最高税率を払っているのは全体のごく一部で、しかも彼らは収入の僅かな割合しか払っていないということを認識するのが重要。


右派

ラリー・クドロー(Larry Kudlow)、CNBC「クドロー・レポート」司会

個人所得税で言えば15-20%、法人事業税や売上税で言えば8-10%。総じて言えば、個人所得税の91%は高すぎる、ということは言える。レーガンはそれを28%まで引き下げた。・・・どちらかというと金融面の問題である今回の大不況を除けば、過去30年間、我々は経済面で非常にうまくやってきた。多分適切な範囲は35-40%だろう。その範囲の税率が非常にうまく機能したように思われる。50%を超えると、問題が起きる。・・・40ないし45%まで行ってしまうと、長期の税収の鈍化ならびに長期の成長の鈍化のリスクが高まる、と私は見ている。

パット・ブキャナン(Pat Buchanan)、コラムニスト、元大統領候補

あまり数字を挙げたくないが、敢えて言うならば、税収を最大化する州税と連邦税の合算税率はおおよそ33%。

ドナルド・ラスキン(Donald Luskin)、コラムニスト

19%。・・・個人の賃金所得税からの税収を最大化するならば、その税率は19%とするべき。

ステファン・ムーア(Stephen Moore)WSJ編集委員

税収を最大化する税率はおそらく40から50%。一方、成長を最大化する税率は、現在の財政赤字を前提としても、おそらく20%近辺。従って、税率を20ないし25%まで引き下げることを目標とすべき。キャピタルゲイン税について言えば、税収を最大化する税率は15%から20%の間。

ブルース・バートレット(Bruce Bartlett)、コラムニスト、レーガンおよび初代ブッシュ政権の顧問

特定の数字を挙げるのは好きではない。・・・ただ、インセンティブを損なったり大量の税金逃れを引き起こすことなしに、最高税率を現在の水準からかなり引き上げることは可能だと思う。50%は重要な閾値であり、たとえ純税収が増加するとしてもそれより税率を高くしたいとは思わない。・・・アンソニーアトキンソン(Anthony Atkinson)はおそらくイギリスの指導的な財政学の経済学者だが、最高税率を63%ないし83%まで引き上げても税収面で逆効果が生じない、と推計している。・・・欧州中央銀行は・・・ラッファー曲線の間違った側にいる欧州の国は2ヶ国だけであることを見い出した。それ以外のすべての国は、税率の引き上げによって実質的な追加税収が得られることになる。
我が国の税率は欧州より相当低いので、我々の最高税率が逆効果をもたらすまでの引き上げ余地はまだかなりあることを、この研究は示している。

アンドリュー・サムウィック(Andrew Samwick)ダートマス大学

当て推量の危険は冒したくない。当て推量でさえ高所得納税者のデータの慎重な研究を必要とするが、私はそれを行っていない。

グレッグ・マンキュー(Greg Mankiw)ハーバード大学、元CEA委員長

短期と長期ではだいぶ違うと思う。たとえば最高税率を35%から60%に引き上げると、短期的には税収は増加するだろう。しかし、やがて経済成長が低下するので、増収分も落ち込んでいき、ついには低税率時の水準を下回ることになるだろう。・・・特定の数字を挙げるのにはそれなりの時間と考察が必要なので今はやめにしておくが、政策的な目標を考えた場合、短期の解よりも長期の解の方が実際問題として重要である、ということは指摘しておきたい。

エドワード・ラジアー(Edward Lazear)スタンフォード大学、元CEA委員長

済まないが、答えられない。

マーチン・フェルドシュタイン(Martin Feldstein)ハーバード大学、元CEA委員長

なぜ税収を最大化する税率を追い求めるのだ? 税率が上がれば「死荷重損失」(経済にとっての実質的な損失)が上昇するので、税収を最大化する税率に近づくにつれ、経済への損失はその税収による利得を上回ることになる。・・・私は皆と同様に財政赤字が嫌いだ。しかし、たとえば財政赤字を1億ドル減らすために、10億ドル分のGDPを本当に諦めるつもりか、と訊かれれば、その答えはノーだ。国民所得はそれ自体が目標なのだ。それが消費を決定し、我々の生活水準を決定するのだ。


共和党政治家

・ミッチ・マコネル(Mitch McConnell)共和党上院院内総務(ケンタッキー)

回答拒否

・ジム・デミント(Jim DeMint)上院議員サウスカロライナ

回答拒否

マイク・ペンス(Mike Pence)下院議員(インディアナ

回答拒否

・タデウス・マックコーター(Thaddeus McCotter)下院議員(ミシガン)

回答拒否