デフレの謎・ある回答

気がつくと、Canucks Anonymousブログが最近それなりの頻度で更新されるようになっていた*1


その7/26エントリでは、クルーグマン同日のブログエントリ*2で提起したデフレの謎について、一つの回答を示している。


クルーグマンが提起した謎とは、日本ではデフレが長く続いているが、なぜデフレスパイラルに陥らず、緩やかなデフレが継続しているのか、というものである。クルーグマンはその理由を、価格硬直性に求めている。


Canucks Anonymousのブログ主のAdam Pは、別回答として、以下のように論じている*3

...everything stays stable if agents believe that at some future date when the deflation is in progress the CB will make a big loosening, an over reaction so to speak. This belief can put a damper on the explosion today.

Which brings up the most important point, price level determinacy depends on the entire central bank reaction function, not just on what it actually does. Whether or not the price level today is determined depends on what agents think the central bank will do in all states of the world, both states that may occur and states that may never occur. Put another way, private agent behaviour in equilibrium is controlled by beliefs about what the central bank will do out of equilibrium even though that may never happen.
(拙訳)
・・・デフレが進行した将来のある時点で、中央銀行が非常な金融緩和――言うならば過剰反応なまでの金融緩和――を実施すると経済の参加主体が信ずるならば、すべては安定した状態に留まるであろう。こうした信頼には、今日においてデフレが指数関数的に発展することを防ぐ作用がある。
このことは極めて重要な帰結を提示する。物価水準の決定は、中央銀行の反応関数全体に依存するのであり、実際に中央銀行が実行に移すことだけに依存するのではない、という帰結である。今日の物価水準が確定するか否かは、世の中のありとあらゆる状況――実際に起こり得る状況か、決して起きないであろう状況かを問わず――において中央銀行がどのように行動すると主体が思うか、に依存するのである。別の言い方をすると、均衡における民間主体の行動は、均衡の外において中央銀行がどのように行動すると彼らが信じるか、によって制御されるのである。たとえその均衡の外という状態が決して実現しないとしても、だ。


このAdam Pの記述は、経済学における期待ないし予想という概念の一つの説明になっている*4
また、この論理は、デフレスパイラルよりも、ハイパーインフレについてもより当てはまるだろう。デフレを防ぐ超金融緩和よりも、ハイパーインフレを防ぐ金融引き締め策の方が、歴史上により多く実例が存在しているであろうからだ。

*1:このブログの成立経緯についてはここ参照。

*2:邦訳はこちら。なお、クルーグマンはこの中でYellenをYellinと誤記しており、コメントで指摘されているが、修正していない。

*3:ちなみに小生はここで、それが均衡になっている、というもう一つの可能性について論じた。

*4:cf. このエントリ