ラジャンの経済断層論

昨日のエントリではラジャンの預金保険に関する独自の見方を紹介したが、そこで言及したTIME本体のインタビュー記事でも、新著「Fault Lines: How Hidden Fractures Still Threaten the World Economy」で述べられている彼独自の見解を披露している。彼によれば、今回のバブルの問題点(彼はこれを「断層(fault line)」と表現している)は以下の3つに集約される。

  • 所得格差の問題を根本的に対応するのを怠り、より安易な金融緩和政策に頼ったこと。
    • これには前例がある。19世紀末頃から農家が所得面等で遅れを取るようになったため、20世紀初めには銀行を通じ彼らへの大量の信用供給が行われた。これが大恐慌の前触れになったと言う人もいる。
  • 1990年代以降の景気回復では雇用が戻るのに時間が掛かるようになり(いわゆるジョブレスリカバリー)、その対応のため金融緩和が長く継続されるようになったこと。
    • 1991年以降、雇用が元に戻るのに23ヶ月掛かるようになったが、従来は8ヶ月だった。2001年の不況時には38ヶ月掛かった。
  • 世界では輸出主導によって経済成長した国があるが(日本、ドイツ、韓国、台湾、最近では中国)、そのためには経常赤字となるべき国が必要だった。


さらに金融規制改革については、以下のようなモラリスティックとも言える見解を示している。

But my main message is you have to take a bigger perspective of this crisis. I think there is too much of a focus on being punitive. Greedy bankers are a constant — what changed was the external environment. Yes, there are things we should reform within the financial sector, but we should also think about the forces outside of the system that are pushing it in the direction of trouble. Some of the regulations we're talking about are of the kind, Can the borrower afford to pay back his loan? Well, people should be making loans they expect will be paid back. If you need a regulation for that, then your system is totally broken. In a society that makes these sorts of loans the problem isn't just with the brokers or the bankers. The forces are much deeper and broader.
(拙訳)
私の主たる主張は、危機についてもっと大局的な見地に立つべき、ということです。今は罰を与えることに力点が置かれすぎていると思います。貪欲な銀行家は常に存在します――変化したのは、むしろ外部環境の方なのです。確かに金融セクターについて改革すべき点はありますが、外から金融システムを問題をもたらす方向に押しやった力についても考える必要があります。我々が議論している規制の中には、借り手が借金を返済できるか、ということを云々するものもあります。しかし、人々は返済可能な借金をすべきなのです。もしそれについて規制が必要と言うならば、そもそもシステムが完全に壊れています。そのような融資が問題になるような社会というのは、ブローカーや銀行家といったレベルの話を超えています。問題を生じせしめる力は、より深刻で、広範囲に亘っているのです。