玉葱とハリウッドの共通点・続き

5/14のエントリで映画の興行収入先物に対する規制が導入されそうだという話を紹介したが、当該記事を書いたフェリックス・サーモンがブログでフォローエントリを上げている。そこで彼は、映画先物反対論をぶったブロガーのジョシュア・ブラウン(Joshua Brown)に反論している。

ブラウンは反対の根拠を6点にまとめているので、サーモンの反論もそれに沿った形になっている。以下はその概略。

  1. 創造性への悪影響?
    • ブラウンは、先物により興行成績至上主義がますます跋扈し、創造性が脇に追いやられてしまうと懸念しているが、むしろ先物でヘッジすることによって興行成績を過度に気にしなくて済むようになる、とサーモンは指摘する。
       
  2. 続編やリメークの氾濫?
    • ブラウンは、公開週(オープニング)の興行成績にますます注目が集まるようになる結果、安直な続編やリメークがさらに粗製乱造されることを懸念している。それに対しサーモンは、続編やリメークがオリジナルより良い場合もある(例:ゴッドファーザーパートII、帝国の逆襲、エイリアン2トイストーリー2、ダークナイト)、と指摘する。
    • また、続編やリメークが利益を上げ、先物取引所を通じてそうした利益が確定すれば、それが本当に創造的な人たちに還元される、という好循環も生まれる。クリストファー・ノーランのような監督も、大手製作会社が小規模で創造的な映画に出資するということをしなければ発掘されずじまいだったろう、とサーモンは言う。
       
  3. 賭けるから見るのか、見るから賭けるのか?
    • 賭けることによってますます対象への愛着が湧くのではないか、とサーモンが先の論説に書いたのに対し、ブラウンは、TVで放映されるスポーツを反例として挙げる。TVのスポーツ観戦者はいずれにせよ放送は見るのであり、賭けはむしろついでのようなものである。これに対しサーモンは、賭けたから映画を見るようになるだろうと主張しているわけではなく、賭けることによってワクワク感が一層高まるだろうということを言っているのだ、と反論している。
       
  4. 市場操作の懸念?
    • ブラウンが、ヘッジファンドが映画館の席を買い占めることによってオープニングの興行成績を嵩上げすることを懸念しているのに対し、サーモンは、それによって投機家からハリウッドに資金が流れるなら結構なこと、と受け流している。
       
  5. 規制当局の縄張り争い?
    • ブラウンは規制当局の縄張り争いが起きるのではないか、と懸念したのに対し、サーモンは、担当する規制当局はCFTC(商品先物取引委員会)以外になく、MPAA(米国映画協会)が嘴を挟む余地は無い、とその懸念を一蹴している。
       
  6. インサイダー取引
    • たとえばクランクイン後に映画の主要女優と監督がクビになる事態が発生した場合、その映画の関係者はインサイダー情報を握っていることになる、とブラウンは懸念する。それに対しサーモンは、そもそも派生商品は証券では無いので、インサイダー規制が適用されない、と指摘する。そして、そうした内部情報によって人々が取引すれば、形成される価格がより正確になるので結構なこと、と言う。


ただ、こう書きながらもサーモンは、結局は映画の先物は規制されてしまうだろう、という諦めの姿勢を見せている。その理由は、CFTCの主な監督者であるブランシュ・リンカーン上院議員の姉がハリウッドの監督*1だから、との由。


なお、このサーモンのエントリのコメント欄にはブラウン自身が降臨し、たとえば個別株オプションもインサイダー取引の対象になる、と指摘して、上記の項番6のサーモンの主張に疑問を呈している(ブラウンはこの映画インサイダー取引も例に持ち出している)。ブラウンは、さらに項番2についても、いや実際リメークや続編の大部分はひどい代物だし、オープニング成績を狙ってそうした作品がさらに作られるでしょう、と重ねて自説を主張している。

*1:この人らしい。