生産性上昇がGDPギャップを拡大した

池田信夫氏の3/7ブログエントリ「構造改革はGDPギャップを拡大するか」に対し、solidarnoscさんが

需要Yが制約要因になっていればGDPギャップは大きくなるよ。生産性Aを上げても、需要による制約でYが不変なら、K(労働投入),L(資本投入)が小さくなる。(=失業が増える)なのでGDPギャップも大きくなる。Q.E.D.

というはてぶを付けられたが、奇しくもそれと呼応するようなレポートがサンフランシスコ連銀から3/8付けで発表されたEconomist's Viewでリンクされたほか、WSJブログビジネスウィークABCニュースでも取り上げられている)。


以下は同レポートの要旨。

In 2009, strong growth in productivity allowed firms to lay off large numbers of workers while holding output relatively steady. This behavior threw a wrench into the long-standing relationship between changes in GDP and changes in the unemployment rate, known as Okun's law. If Okun's law had held in 2009, the unemployment rate would have risen by about half as much as it did over the course of the year.
(拙訳)
2009年、生産性の力強い上昇によって、企業は生産を比較的安定させたまま、多くの労働者をレイオフすることができた。企業のこの行動のため、オークン則として知られる長期間存在してきたGDP変化と失業率変化の関係が破られることとなった。もし2009年もオークン則が維持されていれば、年間の失業率の上昇は実際の半分で済んだであろう。


このレポートには5枚のグラフが掲げられている。最初は、オークン則が2009年に入って破られたことを示す以下の図1である。



次に、図2として3枚のグラフが提示されている。それらは、オークン則の破れの原因を探るため、GDPギャップを横軸に取って3種の経済変数との関係を描画したものである。最初の図2-Aは、労働参加率を縦軸に取っている。

これを見ると、2009年に労働力参加率は下がっている。これは失業率の分母の減少を示すので、失業率をむしろ下げる方向に働く。


図2-Bでは、一人当たり労働時間を縦軸に取っている。

通常、企業は、不況時にまず労働時間を減らして解雇者数を抑えようとする。もし今回の不況においてその点について企業が違った行動を取ったならば、労働時間にその変化が見い出されるはずである。しかし上図からは、2009年の労働時間の変化もこれまでの傾向と同様である、ないしむしろ減っていることが読み取れる。


図2-Cでは、非農業部門の労働時間当たりGDPを縦軸に取っている。

このグラフにより、2009年のトレンドを外れた労働生産性の上昇こそが、オークン則の破れの原因であることが分かる。



次の図3は、図2における発見を別の形で提示したものである。ここでは今回の不況におけるGDP成長率を、図2の3つの変数、すなわち(GDP/労働時間)、(労働時間/労働人口)、(労働人口/生産年齢人口)に分解している。

これを見ると、不況初期は労働参加率の下げ渋りがGDPの下支えに寄与したものの、2009年は労働生産性の上昇が主にGDPの安定に寄与し、延いてはオークン則の破れにつながったことが分かる。


レポートの最後では、オークン則の破れは一時的なものという予測者の大勢的な見方を紹介しつつ、企業のリストラ努力による生産性上昇が続くならば、そうした見方は楽観的に過ぎるかもしれない、と警鐘を鳴らしている。