少し前に生産性と失業に関する論議が米ブログ界を賑わせていたが、Stephen Williamsonの1/18エントリが取りあえずのまとめになっているかと思うので、簡単に紹介しておく。
彼はまず、GDPを雇用者数で割った簡易的な労働生産性のグラフを描き、以下の定型的な事実を示している*1。
景気後退期に労働生産性が下がるというかつての現象は、全要素生産性(TFP)が景気後退期に下がるというRBC理論と整合的である反面、ケインズ理論とは整合的で無いので、労働保蔵理論が出てきたのだ、と彼は言う。
一方、景気後退期に労働生産性が上昇するという最近の現象については、彼は以下の4つの可能性を挙げている。
- 失業状態のコストが(平均失業期間が伸びるなど)以前より悪化したため、就業者の生産性が上昇した。言うなれば、効率賃金仮説*2と同じメカニズムが働いた。ただ、そのことが定量的に見て重要だったとは思えない(反論は歓迎する)。
- クルーグマンは組合の弱体化を理由に挙げたが、組合は個々の労働条件に制約を課すものなので、組合が強い場合、企業は既雇用者の労働内容による調整は諦め、雇用者数自体の調整に乗り出す可能性が高くなる。従って、組合の強い企業では、雇用者数の変動が大きくなることはあっても、小さくなることは無い*3。
- シュンペーター的な創造的破壊によって景気後退期に低生産性企業がいなくなれば、その産業の平均生産性は上がる。しかし、なぜ1990年代以降、とりわけ今回の景気後退期にその現象が起きたのか? 今回の景気後退の主因となった金融要因がシュンペーター的なメカニズムをより強く働かせたのか?
- 生産を業種別に見ることによる説明。今回の景気後退が今までと大きく違うのは、住宅建設業が大きく低下したこと。そして、住宅建設業は経済の中でも生産性の低い部門である。しかも、同業界は回復でも他業種に比べ遅れを取っているが、従来はむしろ回復の先導役だった。ただ、景気後退期半ば以降の生産性上昇はこれで説明できるかもしれないが、住宅建設業の低下は景気後退入りのずっと前から始まっていたにも関わらず、その時点では生産性上昇が見られなかった、という謎は残る。
なお、以前紹介したコーエンのzero marginal productivity仮説についてWilliamsonは、「makes little sense to me」と斬って捨てている。