悪ガキ教授の自滅?

ヤバい経済学 ─悪ガキ教授が世の裏側を探検する」の続編である「SuperFreakonomics: Global Cooling, Patriotic Prostitutes, and Why Suicide Bombers Should Buy Life Insurance」に対し、発売前にも関わらず、既に米ブログ界で批判の嵐が巻き起こっている。事前にレビューのための献本を受けた人たちが、相次いで[これはひどい]タグをネットに打ち出したためである。


それらの批判のポイントは、専ら温暖化問題への著者の姿勢に向けられている。著者のスティーヴン・レヴィットとスティーヴン・ダブナーは、CO2排出を減らすという現行の温暖化対策に批判的で、ネイサン・ミルボルト(元マイクロソフトCTO)の主唱する成層圏に二酸化硫黄を撒いて太陽光を反射させる、という方法がより安上がりで効果的、と主張している。これが当然のごとく現行の温暖化対策に熱心な人々の怒りを買った、というわけである。

小生が目にした主な批判ブログサイトは以下の通り。

  • Joe Romm
    • 批判の中心的サイト。ブログ主のWikipediaこちら
    • エントリでは、以下の点を批判。
      • レヴィット&タブナーの認識の誤り(彼らが非論理的と指摘した炭素排出削減は実際には有効と多くの科学者が信じている)
      • ミルボルト構想の非現実性*1
      • ソーラーパネルが黒色だから熱を吸収するという彼らの太陽光発電批判の問題点(彼らが思っているよりソーラーパネルの効率性は高いし、大半は青色だし、元々黒い地面や屋根に置かれることが多いし、何よりもCO2削減効果がある)
      • 引用の誤り(Ken Caldeira氏の主張をまったく逆に伝えている)*2
  • クルーグマン
    • 上記Romm記事にリンク。
    • 直観に反する議論を提示して人々にショックを与えるやり方は、名を上げる上で有効かもしれないが、地球温暖化のような重要な問題でその方法を適用すると、ただの許されざる過ちを犯すことに堕しかねない。レヴィット&タブナーはその一線を越えてしまった。
    • 追加エントリで、問題の章の最初の5ページにおける問題点(地球寒冷化への言及、マーチン・ワイツマンの引用誤り)を指摘
      (同エントリのタイトルは「Superfreakonomics on climate, part 1」となっているので、続きを予定している模様)。
  • デロング
    • 上記で紹介したもの以外も含め、各種批判サイトにリンクしている。
    • 前日エントリでは、エズラ・クラインの批判にリンクしている。そこでクラインは、温暖化問題よりはむしろ、飲酒問題に関する著者の主張(飲酒して車で帰るより歩いて帰る方が危険)への怒りを表明している。
    • 10/17の後続の2つのエントリでは、著者側の反論(ダブナーとデロングのメールやり取りレヴィットの反論エントリ)を紹介している。著者側も火の手が思ったより広がっているので泡を食ったようである。だが、前者のダブナーのメールに対するデロングの返事はかなり冷ややかなものである。また、後者のレヴィットの反論について、Economist's ViewのMark Thomaは、レビューを期待して献本しておいて、実際のレビューに文句をつけるのは無しだろう、とその書き方を批判している。


なお、ジャスティン・フォックスは、ブログでレヴィットへのインタビュー映像を公開している。そこでレヴィットは、本の中の2つの主張(温暖化問題のほか、チャイルドシートの効果への疑問)は人々を非常に怒らせるだろう、と述べており、彼らが確信犯的にそうしたテーマを盛り込んだことを伺わせる。
ただ、フォックス自身も彼らの温暖化問題の取り扱いについて批判的なようで、TIME誌記事では、温暖化問題の二酸化硫黄散布による解決について「That's not economics. But it is freaky.」と評している。また、クラインが批判した飲酒問題については、要はタクシーで帰れという主張に読めるが、表現が拙かったのではないか、とブログで述べている。


ちなみに、Econlogのブライアン・キャプランもこの本を取り上げているが、温暖化問題については著者側の立場に同意を示している。その一方で、自爆テロ犯が生命保険に入らないというテーマに関し、自殺者には保険が下りないというのは事実誤認、と妙なところに文句をつけている(その点についてフォロー記事まで書いている)。

*1:この点についてはロバート・ワルドマンが著者を擁護するエントリを書いている。

*2:この点についてもロバート・ワルドマンが著者を擁護するエントリを書いている。