スコット・サムナーがブログにFAQページを設けた。Econlogでブライアン・キャプランが、うつし世の経済学者はすべからく読むべし、と絶賛している。以下はその拙訳。
- どうして2008年後半に金融が引き締め気味だったと言えるの?
- 名目GDP成長率がFRBの暗黙の目標を大きく下回ると市場が予測したから。
- でも金利はとても低い水準まで切り下げられたんじゃないの?
- 金利というのは金融政策の指標としては非常にミスリーディングだ。1930年代初頭、2008年後半のいずれにおいても、金利の低下が金融引き締め政策を覆い隠した。金利が低下したのは実際には次の2つの理由による。景気後退予測が借り入れを減少させ、低い金利をもたらした。そして、インフレ期待も大きく下がった。
- でもマネタリーベースは急激に増えたんじゃないの?
- そうだ。しかし、このことも次の2つの理由によりミスリーディングだと言える。デフレで金利がゼロ近辺にある時期には、金利の付かない現金や銀行預金の需要が大きく高まるものなのだ。それに加えて、昨年10月6日にFRBが準備預金に金利を支払い始めたため、銀行が準備預金を溜め込むようになった。
- 超過準備にペナルティ金利を課すといろんな問題が起きるんじゃないの?
- 正しく実行されればそんなことはない。所要準備への正の金利の付与とセットにすれば、銀行の利益を害するとは限らない。なお、手元現金も準備預金の一部なので、それにもペナルティを課すことも考えられる。
- でも銀行が信用供与に値する借り手を見つけられなかったら?
- ならば、超過準備で国債を買えば良い。そうすれば、現金が循環され、「超過現金残高メカニズム」によって総需要を増やすことになる。
- 本当の問題は・・・?
- いいや、今の本当の問題は「実質」の問題ではない。本当の問題は名目の問題だ。名目GDPの成長率が大きく落ち込むと、常に深刻な不況が発生する。我々は深刻な名目ショックを経験しているが、その問題は少なくともヒュームの時代以来経済学者に理解されているものだ。そのさなかにいると、貨幣ショックの何らかの症状――金融パニックのような――が常に「本当の問題」のように見えるものなのだ。そのため、1930年代には、人々は金融システムの崩壊が大恐慌を引き起こしたと考えた。後になってようやく、貨幣が少なすぎたためであったことに気付いた。
- 景気循環は資本の不適切な配分によって引き起こされるものじゃないの?
- 違う。資本の不適切な配分は起こるし、それは実体経済に影響を及ぼす。しかし、2003-06年の住宅ブームのような大規模な資源の不適切な配分でも、不況をもたらすには至らない。だからこそ、初期の住宅景気の下降はうまく処理できたのだ。2006年半ばと2008年半ばの間には、失業率にちょっとした上昇があっただけだった。最近の失業率が大きく上昇したのは、名目GDPの急低下、つまり、金融引き締めのせいだ。ちなみに、大恐慌の前には大規模な資本の不適切な配分は無かった。その時の問題は、百パーセント、1929年9月以降の金融引き締めだった。
- ガリソンのパワーポイントのスライドは見ました?
- 何回も見た。彼の言葉を使うならば、我々は2次的な恐慌に直面している。ただ、オーストリア学派のあの本やこの本を読めとは言わないでほしい。コメント欄でオーストリア学派景気循環理論が本当に有用であること示して欲しい。エントリに示唆に富むコメントを投稿してくれるのが良い。今取り掛かっているプロジェクト終了まで、何かを読む時間があまり無いもので。
- この混乱の解決策が、そもそもこの混乱に我々を引きずり込んだものと同じとはどういうことなの?
- 解決策は、名目GDPの年率約5%の安定した成長だ。それはこの混乱に我々を引きずり込んだものではない。もう少し正確に言うならば、それは、1982年から2007年にかけて、我々がこの混乱に陥るのを防いできたものだ。名目GDPの適度な成長に必要な通貨供給を怠った時、我々はこの混乱に引きずり込まれた。
- 貴兄の政策は長期的には高インフレにつながるのでは?
- いいや。しかし、私の政策を実行しなければそうなるかもしれない。デフレ期に保守的な「金融タカ派」政策を採った国々(1930年代初頭の米国、1998-02年のアルゼンチン)は、結局左派に政権を取られた。そして長期の景気後退が大規模な財政赤字をもたらすならば、将来の高インフレの可能性は高くなる。金融刺激策は財政刺激策の必要性を減じ、将来に債務がマネタイズされるリスクを減らす。
- 市場の予測は当てにならないんじゃないの?
- そうとも言えるし、そうでないとも言える。市場はしばしば間違うが、それでも我々の入手し得る最善の予測と言える。今の場合、他の民間の予測者や、FRB自身も、名目GDPの低成長率を予測している。だから、どの予測を使おうが、もっと刺激策が必要なことを示しているのに変わり無い。
- 金融刺激策は流動性の罠では効かないんじゃないの?
- そうではない。一時的な貨幣の注入は決して効果的ではない。恒久的と期待される貨幣の注入は、たとえ流動性の罠のもとでも、常に効果を発揮する(と、有名なケインジアンのポール・クルーグマンは言っている)。我々が必要としているのは、名目GDPもしくはインフレの明示的な今後の経路だ。その経路を短期間下回ったら、それを埋め合わせるという事前の約束も必要だ。そうしたことが、金融政策の信頼性を高める。
- 金融による刺激と財政による刺激の両方が必要なのでは?
- いいや。金融刺激は名目GDPをお好みの速度で成長させることを可能にする。たとえばジンバブエを見よ。いったんFRBが目標成長率を生み出すと期待される水準に金融政策をセットしたら、財政政策の出番は無い。そこで財政を持ち出すと、却って事態を悪くする。
- 「長く、かつ変動するラグ」のせいで、金融刺激が行き過ぎになるリスクもあるのでは?
- いいや。金融刺激には、長く、かつ変動するラグはない。確かに硬直的な賃金や価格には金融はラグをもって効く。しかし賃金の成長はインフレ期待によって定まる。従って、FRBが12ヶ月先の名目GDPもしくはインフレ率を目標としている限り、破壊的なインフレを心配する必要は無い。たまに原油価格によるインフレの一時的な上昇はあるかもしれないが、それはコアインフレを上昇させることはなく、よって賃金も上昇させない。
- 消費者物価指数は住宅価格や株価を無視するので、インフレの指標として良くないのでは?
- 株価は含まれるべきではない。住宅価格は含まれるべきで、2004-06年の実際のインフレは公式値よりは高かった。ただ、それほど乖離していたわけではない。私が名目GDP目標の方を好むのも、それが理由の一つだ。つまり、新規住宅価格が含まれるからだ。
- 人々が非合理的で市場が非効率だということを示す研究がこれだけ多くあるのに、効率的市場仮説をどうやって守れば良いの?
- 市場アノマリーの研究はデータマイニングの産物だ。そのことは経済学者もある程度気付いているが、その実態は大部分の経済学者が思っているより遥かに悪い。それらの検証は信頼できる代物ではない。人々はしばしば非合理的になるが、その非合理性が、高度な金融や商品の市場に大きな影響を与えるかどうかは明らかではない。反効率的市場仮説の立場の人々は、有用な公共政策のアドバイス、もしくは有用な投資のアドバイスを提供するにはまだ至っていない。
- 住宅バブルというのは明らかに大きな砂上の楼閣だったんじゃないの? 考えることのできる人にはその時点でそのことが明らかだったんじゃないの?
- 何十億も損して消滅したものさえ出たウォールストリートの大銀行には、そのことが明らかではなかったのは明白だ。それらの銀行もしくは直接MBSに投資した多くの高度に洗練された投資家も同様だ。振り返ってみればこの破綻が明らかなはずだったというのには同意するが、実際にはそうではなかった。最低5%の「自腹」出資というオバマが提案したルールも、この危機を防げなかっただろう。実際に多くの連中が自腹を切って注ぎ込み、何十億も損したのだ。
- 唯一の解決策は中央銀行の廃止では?
- それでどうなる? 金本位制は価格水準を安定化させない。というのは、金の実質価値は他の商品と同様に揺れ動くからだ。我々は金本位制のもとで恐慌を経験した。中央銀行は不可避だと思う。ただ、制度を改革して、中央銀行が市場を出し抜こうとしなくなるようにするべきだとは思う。将来目標システムを手段として、金融政策は市場によって履行されるべきなのだ。市場は価格水準、もしくは名目GDPを安定化する最良の存在だ。
- 貴兄は世界のすべての問題を紙幣の印刷によって解決しようとする金融オタクに過ぎないんじゃないの?
- その通り。しかし壊れた時計と同じで、金融オタクは1世紀に2回正しい。1933年と今日だ。それ以外の98年間は、私はシカゴで教育を受けたリバタリアンのインフレタカ派だ。1世紀に2回、私はアービング・フィッシャー・スーパーヒーロースーツを身に纏い、地下深くの秘密基地から現れるのだ。
申し訳ないが、このFAQにはこのページで答える余裕は無い。このページは主に、私の出自を知らず、ブログエントリをより理解するための情報を欲する新規訪問者のためのものだ。訪問者が新たなエントリで疑問を提起する機会は幾らでもある。エントリは次から次へと現れるだろう。嫌になるほどに。