フェルドシュタインが温暖化対策に懐疑的な見方を示している。クルーグマンは当然温暖化対策賛成派であり、両者の意見の対立が鮮明になっている。
5月18日にフェルドシュタインは、ワシントンポストに論説を書き、温暖化はコストに便益が見合わないとした(Economist's View*1、マンキューブログ*2経由)。
フェルドシュタインの反対論は、以下のようにまとめられる。
- 温暖化対策法案(ワックスマン・マーキー法)は、2020年までにCO2排出量を2005年の83%にすることを求めている。CBOの試算では、CO2の15%の削減のため、家計には年間1600ドルの費用負担が発生する。
- 現在の米国のCO2排出量のシェアは25%以下に過ぎず、開発途上国の排出量の上昇により、今後さらに減るものと見込まれる。従って、米国の15%の削減は、全世界ベースでは4%未満の削減に過ぎない。米国は、中国とインドが参加するまで取り組みを遅らせるべきである。
- CBOは、15%削減の排出権の販売によって、今後10年間で800億ドル歳出が増収すると試算している。しかし、ワックスマン・マーキー法では、今後20年間にそのうちの約85%を無償で企業部門に配布することになっている。オークションで売却されようが無償で配布されようが家計の負担は変わらないのだから、政府はオークションで売却してその歳入を家計の負担を減らす一助にすべきだ。
- ワックスマン・マーキー法では、排出権の30%を地域電力会社に割り当てることになっている。それは消費者への還元を狙ったものだが、もしそれによって電力価格が抑えられると、CO2減少も抑制されることになる。そのため、CO2削減の全体目標を達成するためには、他の製品の価格が上昇する必要がある。つまり、一部の電力消費者は得しても、他の家計の負担はむしろ高まることになる。
これに対し、クルーグマンはNYTのop-edでワックスマン・マーキー法賛成の論陣を(法案が完璧ではないことを認めつつも)張ったほか(5/18[邦訳]、6/29[邦訳])、ブログの6/3エントリでフェルドシュタインに反論している。
クルーグマンの反論内容は以下の通り。
- ワックスマン・マーキー法は最終的には80%のCO2削減を要求している。従って今後10年間の約15%削減にのみ焦点を当てるのは極めてミスリーディング。
- フェルドシュタインは全世界への削減寄与度は4%に過ぎないと言うが、キャップ・アンド・トレード・システムが無かったら排出量がもっと増加することを考慮に入れていない。現在と比較するのではなく、当該政策不在時の状況と比較するというのは経済学の常識。
- 中印が参加するまで待てというのは、地球が燃えるに任せよ、と言っているのに等しい。米国が主導権を取らずに国際的合意が成立する可能性は無い。まず先進国で合意を形成し、その後で開発途上国を飴と鞭で取り込むという手順を取るべき。