温暖化対策は経済戦争につながるか?

昨日は温暖化対策法案(ワックスマン・マーキー法)を巡るフェルドシュタインとクルーグマンの対照的な見方を紹介したが、今日はいわばその第2ラウンドを紹介する(Economist's View経由)。


フェルドシュタインは、「キャップ・アンド・トレードは保護主義を引き起こすか?(Will Cap-and-Trade Incite Protectionism?)」と題されたProject Syndicate論説を書いて、以下のような懸念を表明している。

  • すべての国が同率のCO2削減を目指したとしても、排出権価格は同じにはならない。というのは、当初のCO2水準や製造業の構成は国ごとに違うので、排出権価格もそれを反映して国ごとに違ってくる。排出権価格は製品価格に反映されるので、結局、キャップ・アンド・トレードは国際競争力に影響することになる。
  • 排出権価格が実際にCO2排出に影響を与えるほどになれば、排出権価格の低い国からの輸入に関税を掛けろという政治圧力が高まるだろう。同時に、製造過程でCO2をより多く排出する製品には、そうした関税を高くする圧力が働くだろう。そうすると、国や製品ごとにばらばらの関税が発生するが、それは50年以上前のGATT発足以来、各国政府がまさに撤廃しようとしてきたものである。
  • ワックスマン・マーキー法の複雑さ(排出権の85%をオークションで販売するのではなく無償で配布すること、複雑な規制、植林などのカーボンオフセット)は、CO2政策の各国比較をますます困難にする。そうすると、国内の職場の確保のために関税を高くしたい連中に付け入る隙を与えることになる。
  • 政府によって国際競争力にもたらされる差は、キャップ・アンド・トレード政策だけに拠るものではない。公的資本の充実策も影響する。公的資本の差を理由に関税が設けられることがないのと同様、キャップ・アンド・トレードを関税の口実にすべきではない。来る12月のコペンハーゲン会合では、各国はそのことをゆめゆめ忘れるべきではない。


これに対しクルーグマンは、5/15のNYTのop-ed邦訳)やブログ(6/26エントリ6/29エントリ邦訳]、7/1エントリ)で、中国のように温暖化対策に消極的な国に応分の負担をしてもらうためには、関税やむなしと主張している。クルーグマンがそこで引き合いに出すのは、バグワティが創始した非経済学的な目的の達成(食糧自給の確保など)のための貿易介入政策の理論である。また、基本的な経済学から言っても、CO2排出の多い他国の製品に消費者が向かうインセンティブを抑えなければ、世界の温室効果ガスを抑止するというそもそもの目的が適わなくなる、と指摘する。
クルーグマンはさらに、輸入品にも付加価値税が掛けられることを引き合いに出して、キャップ・アンド・トレードの調整に伴う関税も同じことだ(いずれも最終的には消費者が負担する)、保護主義ではなく競争の場を均等にするのだ、と論じている。そして、「自由貿易は善、保護主義は悪」というスローガン(サミュエルソンが「economic “shibboleth”」と呼んだもの)に頼って、経済学的に深く考えようとしない人たちを批判している。