昨日紹介したタレブの「Ten principles for a Black Swan-proof world」に米国のブログからも幾つか反応が出ている。
Naked Capitalismのイブ・スミスは、素晴らしい、必読、と褒めつつも、実際に実行されることはないだろう、と書いている。
フェリックス・サーモンは、一般的にはこういうリスト形式の記事は嫌いなのだが、これは素晴らしい、とやはり褒めている。そして上記のスミスのコメントに触れ、実行すべきだが実際には実行できないという政治的ジレンマの指摘こそがこのタレブ記事の価値なのだ、と書いている。
現実には、経済活動においてToo big to failな金融機関はどうしても生まれてしまうし、金融機関が従業員にボーナスを与えるのを止めることもできない。また、複雑な派生商品を禁止しろと言うが、派生商品は基本的に相互契約であり、同意した大人同士がそういう契約関係に入るのを誰が止められようか、とサーモンは書いている。
サーモンはまた、タレブの記事には、彼の理想とする世界の実現にどのくらい時間がかかるかについての記述がない、という苦言も呈し、トムソン・ロイターのCEOのトム・グローサー(サーモンの究極の上司)の以下の言葉を引用している。
「私は人生で多くの賢い人に会った。彼らは最終的には常に正しく、最終的に物事がどうなるか常に把握していた。だが同時に、世の中の摩擦、ならびに最終的にそこに到達する時間を常に過小評価していた。」
なお、スティーブ・ワルドマンは、上記のサーモン記事の「相互契約」という部分に反応し、真の二者間の契約は紳士協定だけだ、いわゆる普通の契約には、その執行を強制する法的機関という第三者が暗黙のうちに想定されているのだ、と指摘している。そして、そのことが最も顕わになるのが、派生商品よりはむしろタレブがレバレッジという形で取り上げた負債である、とも指摘している。というのは、破産時の債務者と債権者の間の関係の整理には、法的機関がどうしても介在することになるからである。
ワルドマンによると、破産というのは、かつての債権者による暴力的な債務者からの債権回収を改善する形で発展してきたものであり、昔の二者間だけの契約よりは債務者を保護するようになっている。従って、債権者は融資に当たって、昔よりは貸し倒れのリスクを慎重に見極める必要性が高まり、愚かな貸し出しを避けるようになった。それは経済の効率的な資源配分という観点からは好ましい変化であった。だが、今回の危機ではその破産のロジックが十分に働かず、馬鹿げた融資が行なわれ、しかもその債権者が保護されすぎているきらいがある。その半面、破産した債務者が、融資の返済を十分に行なわない一方で経営者の賞与や株主への配当を支払うという事態も見られる。長い目で見れば負債に関する契約というのは望ましい方向に発展してきたのだから、今後はそうした欠点を改善し、さらに望ましい形にするのが今我々がやるべきことではないか、というのがワルドマンの主張である。