経済学を知らないノーベル経済学賞有力候補

この本をもじったタイトルにしてしまったが、今日も「ファーマ祭り」の続き。


デロングのファーマ批判の第5弾が出たが、ここではマンキューに再び矛先を向け、彼のファーマ弁護は間違いだ、と改めて断じている。

このコメント欄では、Angry Bearのロバート・ワルドマンも登場し、ここここにコメントを連投している*1。最初のコメントでは例によって経済学者への批判をぐだぐだ書き連ねているが、2番目のコメントはシカゴ学派への直球の皮肉で面白かった。曰く

I suspect that the jig is up. Some fresh water economists are feeling compelled to write or say something about the economic crisis. All of them are being pressed for their advice. If they give it, then non-economists will find out how crazy they are. If they don't, non-economists will decide that they have nothing useful to say about economics.

It's an ill wind which blows nobody any good.

(拙訳)要は底が割れた、ということだろう。シカゴ学派の経済学者は、経済危機について何か書くか言うかしなくては、と感じている。彼らは皆アドバイスを求められている。もし彼らが実際にアドバイスすれば、一般の人々は彼らが如何に狂っているか知ることになる。もしアドバイスしなければ、一般の人々は、彼らが経済学について何ら有益なことが言えないのだ、と結論するだろう。
甲の損は乙の得。

そういえば、スティーブン・レヴィットが同様の圧力を感じた際は、素直に自分は良く分からないと認め、同僚のダイアモンドとカシャップに話を振っている。ファーマより賢かった、と言うべきか(本人も「one of the smartest things I’ve ever done」と言っている)。


Econlogでは、アーノルド・クリングに続き、ブライアン・キャプランもファーマ批判に加わった。曰く、ファーマの論理だと、輸入も(GDPからの控除項目なので)良くない、ということになるね*2


一方のファーマも批判に反論している。ただ、その内容は、政府の投資が、民間の失敗した投資(彼は在庫投資を例として挙げている)よりも生産的ならば将来の所得を増やすだろう、というもので、ISバランスにはやはり触れていない。
彼のこの反論は、投資収益率が高い投資を実行すれば企業の時価総額が増える、というファイナンス理論*3のアナロジーGDPを理解していることを示すように思われ、むしろマクロ経済学への無理解をさらに曝け出し、墓穴を掘ってしまった感がある。そうしたアナロジーでの理解の問題点については、クルーグマンが13年も前にハーバード・ビジネス・レビューで分かりやすく指摘しているのだが…。


最近はファイナンス分野でのノーベル経済学賞授賞への風当たりも強いし(Ex.タレブ)、ひょっとすると、本当にこの一件でファーマはノーベル賞をフイにしたかもしれない…。
(ちなみに、この本によると、1990年のファイナンス理論でのノーベル受賞者の一人は、「まるでシカゴ・カブスがワールド・シリーズで優勝したようなもの」と述べたそうだ。この一件が“ビリー・ゴートの呪い”にならなければ良いのだが…。)

*1:デロングブログの第3弾には小生も記念カキコしてしまった(内容は昨日エントリに同じ)。

*2:なお、キャプランその直前のエントリでは、ファーマにも同意できないが、遊休資源があれば財政政策が効果を持つと書いたクリングにも同意できない、というのはLM曲線は垂直だから、と自説を展開している。

*3:cf.ここ