財政支出すべし…でもどこに?

昨日のエントリでのIMFペーパーの紹介に続き、財政刺激策に関する経済学者の論考を取り上げてみる。

マンキューブログタイラー・コーエンEconomist's Viewが一斉に取り上げたのが、Ed Glaeserのこの1/5記事。小生は不勉強でGlaeserのことを知らなかったが、都市経済の研究などで結構有名な人らしい。


記事の中でGlaeserは、中低所得者層に的を絞った減税を提唱している。そうした人々は消費性向が高い、というのと、仮に景気回復に結びつかなくても、困っている人の助けになる、というのがその理由である。的を絞った減税は、昨日紹介したIMFペーパーでも、乗数効果が高いとして推奨されていた政策の一つである。
その反面、IMF乗数効果が高いとしたもう一つの政策である公共支出に関しては、Glaeserは懐疑的である。理由は、そもそも現在、連邦政府は輸送関係のインフラに年400億ドル、それ以外のインフラに200億ドル費やしているが、それを倍加したとしても、オバマ・パッケージ7500億ドルの8%を占めるに過ぎない、という点にある。この辺りのGlaeserの記述を、従前からの財政刺激懐疑論者であるタイラー・コーエンは、我が意を得たり、という感じで自ブログに引用している*1
Glaeserはまた、財政難に苦しむ地方政府への交付も主張している。これについては、以前のマンキューハミルトン、そしてクルーグマンの主張と似ている。


一方、Glaeserとは対照的なのが、この記事でインタビューを引用されたスティグリッツである。

"I've been a bit astonished that all the discussion around the private-sector stimulus has centered on infrastructure," he said. "Bailouts, too, are aimed at correcting mistakes of the past, so they are backward-looking. We would be much better off spending our money forward-looking. If we spend $700 billion on new technology and innovation, we'd have a stronger, new, real economy. Up to now, the discussion has focused on the sectors that have been mismanaged rather than the sectors that are creating our future."

インフラ整備も、企業救済と同様、後ろ向きの話に過ぎない、もっと前向きのことにカネを使えば皆の暮らしが良くなる、7000億ドルを新技術や技術革新に使えば、たくましい新たな実体経済が生まれる、と、薔薇色とも言える提言をしている。


この記事は、スティグリッツ以外にも、技術革新が雇用を生む、という楽観的な発言の引用で埋め尽くされている。その意味で、たとえばこのブログエントリのような技術革新によって雇用が減る、という悲観論への良い中和剤になるかもしれない。


ちなみに、コーエンと同じくMarginal Revolutionの書き手であるアレックス・タバロックは、コーエンよりは財政刺激策に積極的なようで*2、投資すべき新技術の一つとしてスマート・グリッドを推している

*1:同時にコーエンは、オバマがパッケージの40%である3000億ドルを減税に振り向けることを、ここぞとばかりに前述のエントリの追記や、このエントリで書き立てている。減税も景気回復につながるとはコーエンは思っていないが、公共支出よりは無駄金が少ない、というのがその理由である。

*2:1年前、反対論をぶったそのすぐ後に、微妙にスタンスを変えている