金融機関は自分のドッグフードを食うべし

ティーブ・ワルドマンという経済関係で割と知られたブロガー*1が書いた金融市場改革に関するエントリが、一部で注目を集めている。たとえば、タイラー・コーエンは、「すべてが面白い(interesting throughout)」と評している


事の発端は、ダニ・ロドリックが自ブログの9/22エントリで、金融イノベーションの成果とは何だったのか?と問うたことにある。それ対してワルドマンが自ブログで回答したのだが、その回答がいたくロドリックのお気に召した。特に、良い金融イノベーションだけでなく悪い金融イノベーションもある、と論じた部分が、ロドリックの壷に嵌まったようだ。そこで、ロドリックは、では、悪い金融イノベーションの存在を踏まえるならば、金融の監督規制はいかにあるべきか、と再びワルドマンに問い掛けた。それに対する回答が上記のエントリである*2


ワルドマンの結論は、実は、池田信夫氏のこのエントリの結論に似ている。両者を対比させてみよう。

A better approach would be to eliminate safe-harbor for intermediaries by insisting that they be substantially invested in the funds they manage, and on the hook — financially, not just reputationally — for losses as well as gains.

Interfluidity :: Should "bad" financial contracts be banned?

これを解決する原則は、ウォーレン・バフェットのいう"skin in the game"、「身銭を切らないやつの話は信じるな」である。逆淘汰を解決する(本当のことをいわせる)には、エージェントにリスクを負わせることだ。たとえば格付け会社には債券を評価に比例して保有するよう義務づけるとか、オリジネイターには一定の劣後的な債権を保有するよう義務づける(かつてはそういう慣行があったらしい)などのルールが考えられる。

http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/d3e38a82622adce624dd8c5dfb8231c3

IT業界などでは、自分の作った製品に責任を持て、という意味で自分のドッグフードを食う、という慣用句があるそうだが、要は、金融業界でもそうすべし、ということである。


また、単に情報開示を緻密にすれば良いというわけではない、と主張する点でも両者は共通している。

But having regulators review and restrict the substantive terms of financial contracts strikes me as a bad idea.

Interfluidity :: Should "bad" financial contracts be banned?

証券のリスクは開示されているが、大部分の投資家は何百ページもある目論見書を読まない。彼らは「ゴールドマンの組んだファンドなら大丈夫だろう」といったアバウトな判断で丸投げしているから、その信頼が裏切られると一種の取り付けが起こるのだ。
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本源的な財務情報をすべての投資家に完全に開示させることは、可能でもないし必要でもない(ほとんどの投資家は開示されてもわからない)。

http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/d3e38a82622adce624dd8c5dfb8231c3


ただ、ワルドマンのエントリの面白さは、(コーエンがいみじくも指摘したように、)こうした結論部だけではなく、むしろその結論に至る過程にある。それについては、エントリを改めて見てみる予定。

*1:ここで取り上げたAngry Bearのロバート・ワルドマンとは別人(「ワルドマン」のスペルも違う)。本ブログでは以前原油価格論争に絡んでここで言及したことがある。

*2:ただし、こちらはロドリックはまだきちんと読んでいないようだ