消費促進税 VS 消費抑制税

kmoriさんが財政刺激策の一案として、消費に使用目的を限定した口座を通じて給付金を配布する、というアイディアを提示している(タイラー・コーエンも同趣旨の案を紹介しているとの由)。これは、いわばオンライン化されたバウチャーという感じになろうか。
kmoriさんのこの案の原型は、氏が10/22エントリで提案した消費促進減税である。こちらは、消費額に応じて減税する、という案であり、裏返せば貯蓄に対する税になっている。


一方、ここで紹介したロバート・フランクは、累進消費課税なるものを提案している。彼の案は、所得を対象とした現行の課税制度を、消費を対象とした課税制度に抜本的に切り替える、というものである。この案は、kmoriさん案とは逆に、消費を抑制し、貯蓄を推進する方向に働く。フランクは、それを累進的にすることにより、特に富裕層での貯蓄を増やそうと提案している。


所得ではなく消費に課税すべき、という議論については、マンキューがこのブログエントリで分かりやすい形で説明している。以下にその数式例を示す。

今日得たWという収入を、rという金利のもとで、T年後に使うものとする。

・税金が無い場合のT年後の可処分所得
  W×(1+r)T
所得税率=t1キャピタルゲイン税率=t2の場合のT年後の可処分所得*1
  (1-t1)W×(1+r(1-t2))T
・消費税率=t1の場合のT年後の可処分所得
  (1-t1)W×(1+r)T

消費税だけの世界では、貯蓄期間Tに関わらず、税金の効果はt1で一定である。しかし、所得税だけの世界では、それに加えて、貯蓄期間Tに比例して大きくなる効果が発生する。つまり、所得税の方が消費税に比べ、貯蓄をより抑制する効果がある。


少し前までの米国のように過剰消費、過少貯蓄が問題になっている場合は、確かに所得税から消費税に切り替えて、消費を抑制し、貯蓄を促進する意味はあるだろう。逆に、日本のように過少消費、過剰貯蓄が問題になっている場合は、むしろ所得税のままの方が良いかもしれない。
そして、今の米国では――確かに依然として貯蓄率は低いが――日本と同様、消費の落ち込みが懸念されている。そうしてみると、このタイミングで消費税に切り替えるという提案はいかがなものか、という気がする。それに、消費総額を把握するというのは、kmoriさんもフランクも認めているように技術的課題が大きく、現実的には難しいだろう。また、現行の購入時に課税する消費税との兼ね合いも検討する必要があろう(二重課税という側面が強くなってしまうので)。


ちなみに、上の第2式で t2 > 1 とすれば、ゲゼル紙幣の世界になる。kmoriさんやコーエンブログの給付金案は期限付きを前提にしているので、この世界に近いと言える。



P.S.
本文と関係ないですが、公共事業としての太陽光発電所の評判が悪いですな。サマーズも似たようなこと言っているんだけどね。彼もその点に関しては日本のマスコミや官僚と同レベル、ということになるのかしらん。


[2008/11/24追記]
上記の太陽光発電所に関してkmoriさんから丁寧なTBを頂きました。多謝。kmoriさんの主旨としては、政府としては発電所建設まで行くのではなく、あくまでの研究開発への出資などの手助けに留まるべき、とのことです。最後には

将来どのテクノロジーが本命になるかまだわからないのですから、今の段階で太陽光だけに膨大なカネを出すより、基礎研究に手広く出資した方が良いのではないでしょうか?

http://d.hatena.ne.jp/kmori58/20081123/p2

と書かれています。
一方、サマーズはここで紹介した動画の最後の方(残り2分半あたり)で、

太陽光や風力といった既存技術を用いれば、これまでより低コストで相当のエネルギーを生み出せることには疑問の余地は無い。経済の歴史を振り返ってみると、技術が普及すれば人々の想像を超えたコストの低下がもたらされるという学習曲線が存在する。よって、次期政権はこうした技術の普及を優先課題とすべき。

http://www.necn.com/Boston/Business/Greater-Boston-Chamber-of-Commerce-hosts-Larry-Summers-/1225389348.html

と述べており、それらの技術が基礎研究の段階を超えて普及の段階に入ったという認識を示しています。それもあって、上記のような書き方をしました(最初にきちんとこちらの発言を引用しておけばよかったかもしれません)。

*1:マンキューの例ではt1=t2=t。